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愛執染着

私ね?
Peaceの箱を開けた匂いだけで、社長だからって特別扱いしませんよ。外で吸ってください。なんて言いながら匂いでクラクラしていたタバコを慣れた手つきで咥えて火を移してってあざとく強請るようになったし、

美味しくもないのにビールのプルを片手で引いて最初は生じゃなくちゃって言えるようになったし、巷じゃレディーキラーなんて名前がついてしまってるから無知な女の振りをしてたまにしか頼まないけど、アルコールの中ならスクリュードライバーが一番好き。
彼氏が作ってくれるお酒で強くなったのよ?

あなたの好きな馬鹿な女のふりだって得意なのよ?

それに、あなたのことが好きすぎるところだってみたせる自信しかないし。

そして酔ったフリをして男をその気にさせる事だって...

タメで綺麗で大人なあの人と違って貴方より5つも若いから?

貴方だけのものになりたい欲が露骨だったから?

ロングがタイプなのに髪が短かったから?

理由を探せばキリがなくて、思っても思っても今のままじゃ何も太刀打ちできなくて私は逃げた。

会社が軌道に乗り始めた時に私は所詮バイトだから辞めますって言って泣いたのが最後だったな。
そして彼の親友が見兼ねてあいつは彼女いるから僕にしておきな。今日うちにおいで。って言われて。
トントン拍子に交際が進んで....

ミニトマトは食べられるようになったかな?冷やしトマト食べたい気分なんだよね。

自分から逃げて遠ざけて忘れるために会うことを遮断したはずなのに、彼に会える事をどんな理由であれワクワクする自分がいた。

でも、まだ悟られてはいけない。はやる鼓隠すように
真っ赤なリップを塗り直し、女の顔を作った。
彼もあんな顔してるけどただの男のはず。
だって、

@xxx
マリッジブルーなのかも。

@xxx
水遊びがしたいな

ご丁寧に裏垢からDMで
この夏の水遊びの相手にいかがですか?って。

あんな湾曲的な表現あなた以外誰が気がつくなんて、ワンチャン賭けだった。
気づかれなかったら諦めよう、勝負はこれで終わり。


相変わらず遅刻癖は治らないんだな....
そう呟いた私に、

「ごめん待ったよね。個室予約してあるから行こっか...?」

と少し息を切らせながら待ち合わせ場所に現れた彼は、いい意味でも悪い意味でもなく何も変わってなかった。

そっと、引っ張ってくれるその大きくて長くて細くてでも、ちょっと男らしいその手と気遣うようにそっと手に力を入れてくる無自覚たらしも、誰にでも手を繋いでしまうから、これに意味なんてないことも。時々じっと見つめてふにゃりと笑いかけてくれる笑顔に、人より少し大きい肩幅。

でもね、私知ってるのよ?
今、貴方か心から笑ってないことくらい。
私の新しい職場の話なんて聞いてどうするの。
それに他に聞きたいことがあるって顔に書いてあるもの。
食事にも全く集中してないのが丸わかりだし、2時間でワイン1本開けちゃってさ。
オフィスのベランダでよくほろ酔いを2人で呑んでたからゆっくりちまちま煽りながらアルコール入れていくスタイルだってことだって、なんならワインがそんなに好きじゃ無いことだって知ってるんだから。

焦らされるのは嫌いなの、早く聞いてよ。

だから、私の知る限り私か一番妖艶に見える顔と角度を使って

「ねぇ、今日ってただのお喋りを楽しみながらお食事だけがしたくて私を呼んだの?」

それとも彼との今後のことがききたくて?なんてジョークも添えてね。
だってね?彼のことはワーカーホリックな彼らだから恋人の私よりずっと彼と時を過ごして、同じこと考え続けてるんだから今更私に尋ねる必要なんてどこにも無いもの、それに親友なんだから左手の煌めきがおそろいな事くらい何も言わなくても気づくだろう。

観念したのか彼は本題に触れてきた...
と言うより体現してきた。
コアな座席感のあるタイプの個室を選んだなとは思っていたけど、これも作戦のうち?
以外に草食系な顔して肉食系?そう言うのロールキャベツ男子っていうんだって話してたな。度胸あるじゃん大胆だな。
さすが人たらしなんて考えていたら、隣に座っただけのはずの彼は、気がつけば逃げられないように掘りごたつの下で足を搦め、そっと手を直接太ももにおいて撫でながら、弱いと知ってか知らずか耳元で

「海は苦手だから行けないけど。ひと夏と言わず水遊びしようか?」

俺策士らしいからとウィンクも添えて。

欲しかった言葉はくれないのか。
当たり前か。
精一杯誘惑の限りは尽くして、成功したわけだけども、私は彼の同僚でありこれから親友の奥様なのだからそれ以上の関係にはなれないって事ね。

自分への好意を知ってて関係を壊すことなく欲には忠実にゆっくり手を出すつもりでいたら、親友の男にあっさり取られただけってことなんだなって改めて知りたくないことを知ってしまった。

これからただ抱かれるだけの男に、彼とは破談にするから連れて逃げてなんてしおらしいことを言ってはいけないのだ。

バレる様な無様なリスクは犯さないけど、目の前にある欲望には従う。
彼は最初からこう言う男だ。
そして、付け加えれば人ものに手を出すことで支配欲を満たす悪い大人。

彼氏の存在のおかげで、あの後私達は燃え上がる夜を過ごした。
ベットの上で、熱っぽく艶やかに彼は

「また会ってくれる?奥様って魅力的だけど嫉妬しちゃうな」

なんて可愛いオネダリまでしてくれて。

その時、あぁ。あなたの好きな大人の女になったんだ。
でも、大人になりすぎたんだって。

あなたは彼から聞くことは無かっただろうし、一生教えてあげないけど....

だって、私の彼氏の私の彼氏による私のための私を落とす最高の罠を人に教えるなんて勿体ないし、私は負けず嫌いだから。

彼が酔ったフリをわざとしてくれながら、私が言い訳できる逃げ道を作って告白してくれた時に私に言ったの

「あいつは、君と同じで負けず嫌いで手に入らなかったもののチャンスは逃さない奴だよって」

でもね、僕はその気が来た時、許すよ。あいつを好きな君を好きになったから。
あいつ好みの女にしてあげるから、僕の支柱に収まりな。

あいつに心根で欲しいって言わせたら君は満足するから。

そう。私たちはもう二度と会うことは無い。
私はあなたに勝った。
勝負に負けはしたけど試合には勝ったの。

あぁ、早く帰って、彼に会いたい。
告白された時から彼に転がされていたのか。

-盤面を用意するだけで勝手に動き出す-



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