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「ま、いっか!」がいる

 人間万事塞翁が馬じゃないが、人生万事「ま、いっか!」だ。
「ま、いっか!」がやって来て、今うちに居る。

 未だにメンバー登録していて、時々順番が回ってくる、
小学校での読み聞かせ。
 「自分で作った絵本を読み聞かせしてみたい」と、
以前は言っていたよねえ。遠い昔の若いエネルギー体のようだった自分を
懐かしむ。未だに自分の絵本など実現していない。それどころか今では、
もう何年も続けてきたせいで、丹念に本を選ぶこともしていない。
 担当表に自分の名前が載ってから、あわててネットで検索して、
テキトーなものを見繕う(こめんね、小学生の皆さん、時間を空けてくれている担任の先生、および保護者等々)今回もそれで行こう、と絵本のサイトを開いて、表示された本の表紙たちを見ていたら、居たのだ。
 「ま、いっか!」
 作はサトシン 、 絵はドーリー。漫画のようなタッチで、ゆるいおじさんの顔の絵。まさに「ま、いっか!」と言っている。主人公は「テキトーさん」だそうだ。まさにテキトーなものを探していたので、ぴったりだ。
 本に惹かれて決定。
 次に「図書館検索」のサイトを開いて、その本を探す。
 絵本サイトでは探すだけ。購入などしない。本は図書館で借りて、
読み聞かせの後は、「図書返却ボックス」にポイ。読み聞かせの本とは、
あっさりした関係を保ってきた。
 今回ももちろん、世田谷区の図書館のチカラを借りるつもりで、
 「あ、無い」
 検索結果ゼロとは。“頑張ってよ世田谷区”と思いながら、
以前利用していたことがある「港区図書館検索」をしてみたら、
こちらにはあった。
 ーむ、港区の図書館かあ。前は港区に会社があって定期券があったので、ほいほい借りに行っていたが、今は在宅勤務で最寄り駅からの定期券も
持っていない。
 最寄り駅から、赤坂、麻布の図書館は、どちらも約三十分で行ける。
片道三五六円だから取りに行って帰ってくるのに七一二円かかるのか。
頑張ってほしいなあ、世田谷区図書館。でも無いのならば。
 何でもここで買えちゃうA社サイトで「ま、いっか!」を見ると、
1,540円。つまり、読み聞かせで三回この本を使えば、図書館で借りるより
安い。じゃあ、「ま、いっか!」、ポチ。
 初めて、読み聞かせ用に本を購入した。
 後で、友人から「区内に無い図書はリクエストすると、近隣の地域からお取り寄せしてもらえるよ」と言われたのは、少し悔しい。でも、必要な時までにお取り寄せできないかもしれないし、と自分を慰めた。

 さあ、A社からポスト投函で、翌日にやって来た「ま、いっか!」は割と大きな絵本で、絵もくっきり。教室内で、遠巻きに座る小学生諸君にも、テキトーさんのおかしな言動は、絵で分かる、はず。
 まず、最初の当番は、低学年のクラス。それなりに「ま、いっか」のパターンでは笑いが生まれた。朝のひととき、これぐらいのユルさが良いね。
 気を良くして、次の当番のでも、中学年クラスだったが「ま、いっか!」を持って行った。小学生の皆さんには悪いが、二回読むと、ほとんどモトが取れたようなもので。だから「ま、いっか!」
 今度のクラスは、おチャラケ系男子に自由な環境のようだ。このセリフ、気に入った、もらいました!とばかり、
 「それ、ま、いっか!」「ま、いっか!」
 途中から最後に向けて、一緒に声出しをし始め、他の子達も同調、読み聞かせが終って教室を出た後も、「ま、いっか!」合唱が外にも聞こえてきた。担任の先生も笑っていた。
 想定以上の受け止め方で、こちらもビックリだった。
 全学年分の読み聞かせ一覧表に、読んだ本と担当者を書く。
「ま、いっか!」を二回続けて書いて、他の方々からは「あー、使い回ししているなあ」と思われるなあ。でも、「ま、いっか!」

 今回は担当者が少なかったらしい。三回も当番が回ってきた。担当が六年生。うーん、六年生に「ま、いっか!」のような絵本でもよいかしら。単純に楽しい、では物足りなさそう。
 少し大人の視点で、この絵本を考えてみると、割と無理のある筋書きだと思えてきた。少々ネタバレになるが、最初にテキトーさん、起きたらもう大遅刻の時間に対して「ま、いっか!」が始まる。
 作者のサトシンさん、カイシャインの経験が無いね、きっと。
 普通、日本の社会で働くカイシャインは、出社が遅れると明確になった
場合、すぐ「ホウレンソウ」だ。上司なりに連絡して「素直に遅刻」か
「仮病や親戚の不幸などを勝手に作って有休連絡」か、
直接だと気が重い場合はメールや、会社の同僚経由ででも自分が遅れるとか休むことを、宣言するのだ。逆に連絡しなかった場合に、後でとても
メンドーなことになるのは、皆カラダにしみ込んでいる。
日本のカイシャインは、まじめなのだ。ここで、テキトーさんに、
日本のカイシャインのDNAがあったら、この絵本はここで終ってしまう。
 小学生の皆さんからは、そこの突っ込みが無いので良かったけど。
 では、「ま、いっか!」に注目しよう。この言葉、ネットで検索したら、いくつか心理的な展開で取り扱っている。自分なりに、この言葉をイメージしてみた。数学オンチなのに、「ま、いっか!」は、絵としての√(ルート)ではないか。平方根が云々ではなくって、この線の動きが、「ま、いっか!」のシチュエーションなのだ。
 まず、失敗とか何かの被害に遭遇とか、「がっくり」「がーん」のような状況になるので、へこんだ線が来るが、そこから一気にV字回復して、時には前の時よりももっと高いところまで気分上昇、そこの状態が維持される。
 「ま、いっか!」を発する時の、気分の上下、まさに√な線ではないか。「ま、いっか!」は、「がーん」な状況を一旦ポジティブに引き上げて肯定してしまい、楽観的要素を引き込むのが、素晴らしい。この単語だけで、気分を明るい色に染めるのだから、すごいセリフなのである。
 だから、一旦、「ま、いっか!」で気分を回復しよう。
明るい色に乗ってから、さあ次を考えればよい。「ま、いっか!」は
前向きな思考の入り口、橋渡しのセリフなのだ。
 但し、テキトーさんのような、「ま、いっか!」展開ではねえ。
ダメでしょう。
 せっかくの「ま、いっか!」の、敢えての反面教師の行動だから、面白くおかしい絵本になっているのだけど。

 何度も出番を迎える「ま、いっか!」の絵本は、今、うちに居る。既に社会人で家に居ない娘が使っていた、勉強机の本たちに仲間入り。


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