【PHILOSOPHIA PERENNIS】ゲスト寄稿: ハーナウとデマゴーグたち

2020年3月8日

いかにして政治とメディアが残虐な犯罪を道具化しているか。Frank Hauboldによるゲスト寄稿

2020年の夜、43歳のTobias R. がハーナウにおいて、まずは移民を背景とした9人の人々を殺害し、さらに72歳の自分の母親も殺した後に自殺をした。その直後に明らかになった犯人の支離滅裂な「マニフェスト」によって、この犯罪は狂気とともに人種差別的な動機によって行われた、という結論が引き出されるようになった。

犠牲者の遺体がまだ冷たくならないうちに、政治とメディアは、この犯罪において重要なのは、第一にそれが極右によるテロ行為であることと、第二にそれに対して少なくともドイツのための選択肢に責任があることである、という点で一致団結した。

もちろんドイツのための選択肢やその幹部たちのことを必ずしも気に入る必要はないが、しかしなぜそもそも、ドイツ国家民主党のせいということにもならなければ、(さらに妥当な理由として)、後に犯罪者となった人間に、明らかな狂った妄想を彼が抱いているにもかかわらず、強力な武器を保持することを許可した管轄の役所のせいということにはならないのだろうか。

連邦検事総長にも送付された犯罪者の明白に狂ったマニフェストと、ドイツのための選択肢の政党の綱領やその構成員の訴えのあいだに何か相関関係でもあるというのだろうか。もちろん何もない。このことを既存の政党の政治家やメルケル女史のメディアの歩兵隊もよくわかっているはずなのだが、彼女たちは、この血塗られた行為が明らかになるやいなや、一秒たりとて躊躇することなく、この政治的な敵対者と唯一の有力な野党にその責任をなすりつけようとしたのである。犯人の人種差別的な性格がドイツのための選択肢が創設されるはるかに以前から表面されていたことが即座に明らかになると、人々は合理的に追跡することが可能な連関についてはあきらめて、彼らが思うところではドイツのための選択肢が作り出したという、ネガティヴな社会の雰囲気に責任があると言い始めたのである。

こうして有毒な政治的な雰囲気と社会に存在する深い溝が、徹頭徹尾、議論する価値のある主題となったのだが、ここには原因と結果を取り違える図々しさが、なおも顕著である。2013年の時点で、なおもドイツのための選択肢は、EUへの批判を重点とする支持率5%の政党であった。結果として暴力的な部族的社会から200万人もの移民たちがコントロールされることなく私たちの国にやってくるという帰結をともなうことになった、メルケル女史による2015年の独裁的でおそらくは法律に反した国境開放によって、はじめてドイツのための選択肢が有力な勢力となったのであり、その唯一の理由としては、既存のいかなる政党も、国民の広範囲にひろがる憂慮や不安を受け止めることも、テーマにすることもなかったということがあるのである。

つまりドイツのための選択肢は、この問題をはらんだ展開の原因なのではなく、単なる妥当性要求や道徳的な思いあがりからくる決断によって、この国を分断しただけではなく、ヨーロッパのパートナーをぞんざいに扱ったメルケル女史による社会的な合意に対する解約通告なのである。

根本的には政治-メディア界隈にいる誰しもにとってこのことは周知であるであったが、にもかかわらずジョージ・オーウェルの陰鬱なヴィジョンを連想させるようなやり方で、古い政党やメディアカルテルは、組織的にドイツのための選択肢に対する魔女狩りだけではなく、不吉にも陰鬱な時代を想起させるような狂ったメルケルの移民政策を批判する人々の全体に対する魔女狩りを行っているのである。

もっとも悪意の満ちた扇動的な憶測をおこなったのは、かつての栄誉あるフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥンクであり、その共同編集者であるBerthold Kohlerは、ハーナウでの凶行を直接的に示唆しながら、文字通りに以下のように記している。「ガウラントやヘッケやクロノフスキーのような輩たちは転向させることができない。彼らは血に飢えているのであり、さらにそれを望んでいるのだ」。

もちろんここで考えらえているのは、名前を挙げられた三人だけではなく、メルケルの無責任な移民政策のすべての批判者たちであり、彼らは総じて血に飢えたテロの支持者として誹謗中傷され、人間扱いすらされていないのである。この三つの名前を「ボルシェヴィキ」や「階級の敵」と取り換えてみれば、Kohlerの長広舌と、憎悪に満ちた褐色で赤色の社会主義者たちのパンフレットとの驚くべき類似を認識することができるだろう。ここでひとは狼狽しながら問いかけることになる、かつての保守の中心であったメディアが近年において一体どのような展開をたどって、Kohlerのようなデマゴーグを共同編集者として活動させて、しかも特権的な自由を保証しているのか、と。Joachim Festのような編集者であれば、私が思うに、きっとこんなパンフレットを流通されることはなかったであろうし、この著者に別の活動分野を探すように薦めたことであろう。

このような組織的な卑劣な手段によるキャンペーンの腐った成果は、すぐに現れている。2020年3月2日の夜に、ドイツのための選択肢の党首であるティノ・クルパラ氏の車が何者かによって火をつけられ、消火を試みる際に彼は有毒な煙を吸い込むことになった。消防士ができたのは、この政治家の住居に炎が燃え移るのを防ぐことだけであった。

けれどもこれは、殺害予告や落書きによって彼らを沈黙させようとする、ドイツのための選択肢の政治家やその事務所に対する一連の攻撃の、暫定的な最高点に過ぎないのである。そういった犯罪者にきっかけとなる言葉を与える人々は、既存の政党の党の中枢や「御用メディア」の編集室に鎮座しているのであり、私の考えによると、そのやり口の陰険さという点で、過去のドイツ民主共和国の画一化強制的なメディアとほとんど変わることころがないのである。

ハーナウにおける人種差別的な凶行を政治とメディアが道具化するときに、それらの意図するところは明白である。すなわちまず、第一の意図としては、ドイツのための選択肢を、明白な証拠によって、原理主義的な犯罪者のお仲間にすることであり、それによって憲法を擁護するとともに、まず彼らが監視され、さらにはその政党活動の禁止が根拠づけられねばならないのである。このことについて、書記長のKlingbeilのような左派政党の有力な政治家が、まったくあけすけに議事録のうちで語っているのである。「まったく明らかのことは、憲法擁護の観点から、ドイツのための選択肢は監視対象にならねばならない政党であるということである」。このことが即座に治安組織によって決定されて実現されることにすら、彼は賛成することだろう。

第二の意図としては、メルケル政権の政治に反抗することを妨げるために、密告と恐怖と隔離の雰囲気を生み出すことである。自らの社会的、職業的な生活基盤や自分の家族の安全について心配を抱いている人は、彼がドイツのための選択肢か、あるいはそこで活動をしているならば、90%以上のケースにおいて、そこから距離を取らなければならないのである。

第三の意図としては——それが最も中心的な目的であるのだが——ドイツのための選択肢を誹謗中傷し、それを隔絶したり周縁化したりすることによって、自らの政治的な尊厳が保たれるだけではなく、とりわけ己の不労所得が守られることになるのである。というのも、政治-メディアのエリートがドイツのために選択肢に向ける憎悪には、単純な経済的な理由があるのである。一つの議席をドイツのための選択肢が獲得することによって、政権を簒奪してきた政党カルテルが、それを一つ失うことになる。このことは一人ひとりの議員だけではなく、数多くの職員や腰巾着や、メディアや文化機関や半国家的な組織や移民産業のそれに依存する人々にも関わることである。だからこそ、政党国家から利益を得る人々を駆り立てているのは純然たる生活への不安であって、というのも彼ら関係者の大部分は、まず労働市場では自分がいかなる機会にも恵まれないということをよく知っているからである。

このような背景から、イデオロギー的、政党政治的、経済的な動機によってハーナウの犯罪を道具化する行いは、ますます不愉快なものとなっている。というのもそこでは、主要な政治家やコメンテーターがただ手段を目的としており、事実上の共感とは全く関わっていないことがあまりにも明白に認識できるからである。道具化することのできない犠牲者に対して政治の共感が要請される場合には、すでにベルリンのBreitscheidplatzのクリスマスマーケットに対する攻撃の後にすでに目にしたように、犠牲者やその関係者たちは、形式的だけでも耳を傾けて、また補償をしてくれるように懇願しなければならなかったのであった。

けれども、この見えみえのキャンペーンは——私にとってこれが犯罪行為そのものよりも恐ろしいものであったが——アンケートの結果が明らかにしているように、それが望んだ成功を手にしている。どんな専門家の判断によっても精神的に障害をもつとされた犯人が、9人の人々を殺害し、そして自分の母親も殺して、自殺した、そしてそのことに対して、一時は60%の被質問者(それでもなおも48%)が、ドイツのための選択肢に責任があると答えたのである!

それと似たように、だまされやすく操作されやすい、密告を歓迎するような人々が国民の大半が占めていた時代を発見するのに、歴史をさかのぼってみてもいいかもしれない。その時代の後に続いたのは、暗黒の…。

https://philosophia-perennis.com/2020/03/08/hanau-und-die-demagogen/

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