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あのときのぜんぶが重なって、目の前の光景に色をつけた【シンガポール】

心がキュッとなって、ぶわぁって、涙が目に溜まった。シンガポールで、きらびやかに立つ高いビルたちを背景に自由に動く美しい光を見て、わたしは泣いた。ひとは、本当に感動した時、言葉が出なくて目をそらせられないんだとその時思った。道ゆく人が足を止めて、その色鮮やかな光に引き込まれていた。

心の中にあったいろんな気持ちが、そのカラフルと重なっていた。

シンガポールは、未来のような都市だ。夢が詰まった場所だ。ニューヨークって、行ったことがないけれどこんな場所なんじゃないかな。


わたしは、シンガポールを好きだと思った。でもそれはシンガポールだから好きになったわけではないのだ。一緒にいた最高の友達とのその「瞬間」が大切だったからだ。最高な友達と一緒なら、その場所はわたしにとって最高になるに決まってる。



ハノイに住んでいたときに仲が良かった友達と、マレーシアのクアラルンプールで合流した。長距離バスの旅を経てシンガポールへ移って来たところだった。

ラマダン明けの祝日と重なったので、マレーシアからシンガポールへの直行バスはぜんぶ売り切れだった。落ち込みながらもシンガポールに最も近い国境の街マレーシアの「ジョホールバル」までのチケットをなんとか取り、そこからタクシーでシンガポールまで向かった。

そもそも当日も、バスが1時間過ぎても来なかったので心配しながら待っていた。なんども近くにいる人に聞いて、みんな「大丈夫、大丈夫」と言うもんだからドキドキしながらも「まぁ、大丈夫か」って。バスがちゃんと来た時の喜びは忘れられない。


これも旅だと思った、こういうのも全部含めて、旅だよねと2人で笑った。


シンガポールに無事に着いたから言えるのだけど、今思えば全部がうまく行った。時間はかかったけど、結果的に憧れのジョホールバルという街も見れた。(シンガポールに橋を渡ればすぐに行けて、それでいて物価が格安なマレーシアのジョホールバルには最近日本人が増えていると大学生の時に本で読んだことがあったので、見てみたかった)。夜中なのにタクシーもすぐに捕まったし、運転手のおじさんもいい人で、相乗りした中国人のお兄さんたちも優しくて。入国審査も直通のバスで行くよりずっとスムーズだった。

夕方に出発してシンガポールに着いたのは夜中の3時だったけど、とっていたエアビーの部屋も素敵で「ああ、なんどシンガポールのこの部屋のこのベットに寝転がることを想像したか!」と幸せな気分で寝転んだ。


すごくすごく、居心地がよくて楽しかった。ハノイで一緒に過ごした見慣れた友達との旅。会わなかった1ヶ月の間にあった出来事を旅の途中で永遠と話した。お互い似たような状況で、将来について一緒に楽しんで悩んで、なんでもできる気がするって笑って、何する?とか、先の見えない未来こそワクワクなんだ!とか。

そんな素敵で最高で明るい未来のことをずっとずっとずっと、話した、シンガポールという小さな国際都市で。


友達というのは自分の成長につれて移り変わっていく、と言うけれど。その子とはきっと次に会うときも「今が一番楽しいね」と、変わらずに笑いあえる気がした。


そんな日の次の日、わたしたちはシンガポールの輝きを見た。


あの日、あの子と、あの気持ちで、あの場所で、あの光景と、あの色と、全部が重なって、わたしは泣いた。



「絶景」とか「観光地」とかそういうのって、そのとき考えていることとか隣にいる人、それまでの苦労とかによって何割り増しにもなる。

もしも、どこでもドアで行きたい場所にいつでも簡単にいける未来が来たら、綺麗な景色を見て心から感動することも少なくなってしまうんじゃないかとさえ思う。


旅の途中で考えたり、悩んだり、苦労したり、隣にいる人とか、素敵な出会いとか、そういう全部が目の前の光景に色をつけてくれるのだと思う。




日本ではあまり流行っていないようだけど、キリスト教の3大巡礼路のひとつでスペインにある「カミーノ・デ・サンティアゴ」が今、韓国で流行っているとタイで出会ったキムという女の子が教えてくれた。800km先の聖地を1ヶ月かけて歩いて目指す。


去年の夏休みにこの巡礼路を1ヶ月かけて歩いたキム。歩くのはとても大変だったけど、歩く道のりでの出会いや経験がとんでもなく面白かったと話してくれた。ゴールに到達して海が見えた時の感動は、忘れられないと。

そこで見る夕日は、世界でいちばん美しいに違いない。



*



大切な人が、今月末にシンガポールへ行くと言った。「とても綺麗だった、必ず気にいるよ」。と、わたしはおすすめしたけれど、本音を言うとそれは確かではなかった。

ひとりで旅をしているその人が、あの景色を、ひとりではなくて心をゆるせる誰かと見てくれるといいなぁと、思った。




いつも見てくださっている方、どうもありがとうございます!こうして繋がれる今の時代ってすごい