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蜜蜂と遠雷 恩田陸

世界のそこここにある光を感じ熱を得て、照らされ温められて共振している様を、誰かと伝え合いたいと願う全ての人に、このお話をお勧めしたいと思いました。

舞台は、芳ヶ江国際ピアノコンクール。
一次予選から本戦まで、風間塵と栄伝亜夜のステージを中心に登場人物の心象を描いています。

ですからこのお話はコンクールの進行と同様に、たった一度きり、その瞬間の連なりを感じて読むものだと思うのです。決して読み返したりせずに。

          推薦状
 皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。文字通り、彼は『ギフト』である。恐らくは、天から我々への。だが、勘違いしてはいけない。試されているのは彼ではなく、私であり、審査員の皆さんなのだ。
 彼を『体験』すればお分かりになるだろうが、彼は決して甘い恩寵などではない。彼は劇薬なのだ。中には彼を嫌悪し、憎悪し、拒絶する者もいるだろう。しかし、それもまた彼の真実であり、彼を『体験』する者の中にある真実なのだ。
 彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『厄災』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている。
           ユウジ・フォン=ホフマン

蜜蜂と遠雷より

本を開くとすぐ目に入るように扉の裏側に記された、偉大なる音楽家ホフマンからの「推薦状」。
読み進むごと、それは審査員だけに向けられたものではなく、登場人物、読み進む者全てに投げかけている言葉だということに気づかされます。

このお話は、読むものではなく体験です。
かけがえのない出会いとも言えるでしょう。

冒頭に書いたように、世界のそこここにある光を感じ熱を得て、照らされ温められて共振している様を、誰かと伝え合いたいと願う全ての人へ、心からお勧めしたいと思います。


一次予選まで読み終えニ次予選に進む前、わたしにこの本を勧めた長男へ、たまらずLINEをしました。
「二次予選途中まで読んだけど、風間塵のステージを読むのがもったいなくて進めない」
「だろ?」「俺は二次の春と修羅が好きだよ。」長男とこのような話ができることを、とてもありがたく思いました。

毎度のことですが、心に響くお話は映画になっているのですね。ただ、このお話を映像にするのはとても難しいことだろうなと思いましたよ。


「蜜蜂と遠雷」
わたしにとってそれは、得難い体験。
心に添い心の花を、音楽を露わにする言葉達によって、美しく咲かせるお話です。

世界は音楽に満ちている🎵

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