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15 K【掌編、400字】

 眠りたい、と彼が言った。彼は眠ったことがないと彼は思っていた。しかし彼は眠りたいと言い、眠ることに憧れていた。憧れて、眠ることのイメージが出来ていた。イメージを体験していた。
 彼は自分は眠れていないと思い、眠っている人との不調和を感じていた。合わせることも出来た。彼は眠っているように振る舞い、眠っている人とうまくやれた。眠りたい。そう言いながら彼は「私は眠れていない」と自己暗示をかけ、結果、彼は「眠れていない私」を作り出していた。
 彼は、眠ること、眠らないこと、その両方を知っていた。彼は周囲の者が眠っていると思い、彼自身は眠っていないと思い、彼は眠りに憧れた。彼は自分がなぜ眠れないのか、納得していなかった。納得が欲しかったのかもしれない。納得が手に入らないなら、眠ってしまった方が、話が早い。私は、眠りたい。そう思い、彼はずうっと起き続けた。夢と現実を同時に見ていた。

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