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クマのこと -わたしが尾瀬で考えさせられること-

※以前は「Oze Nature」として投稿していましたが、今後は尾瀬日和から投稿していきます。以前の投稿はこちらから↓


尾瀬国立公園にいると
避けて通れない問題があります。

それはツキノワグマのこと。

とくに尾瀬国立公園の尾瀬ヶ原と鳩待峠〜山ノ鼻間では
ある時期になるとよく目撃されるようになります。

ビジターセンターで働いているときは
「クマがいました!」
「クマがいて帰れないからどうにかしてください!」
「子グマがいてかわいかったですー」
など、クマの目撃情報の報告をよく受けていました。

とくに目撃が多くなるのは7月〜8月。
この時期は尾瀬で一番有名な植物の
ミズバショウの実を食べに
ツキノワグマが木道近くまでやってきて、
尾瀬を訪れた方々に発見されてしまっています。

ミズバショウ
ミズバショウの実
ツキノワグマのフン

わたしは尾瀬で働くまで
もちろんツキノワグマを目撃したことなんてありませんでした。

でも尾瀬で働くようになってから
全然特別なことなんかじゃなく
むしろトラウマになるほど出遭ってしまっているのです。

わたしが人生で初めてツキノワグマに遭遇したのは尾瀬高生のとき。
小学生を案内する実習があって
もうすぐ山ノ鼻地区という目印でもある山の川上川橋に差し掛かったとき、
親子のクマと遭遇してしまいました。
幸いそのクマの親子は私たちのことを
ちらっと目の端に捉えただけで、
とくに気にも留めていなかったので
その場をなんとかやり過ごすことができました。

それから数年後
ビジターセンター職員となったわたしは
まさかツキノワグマを追い払うことになるなんて
思ってもみませんでした。

ビジターセンターへツキノワグマの目撃情報が入ると
職員たちはその情報を確認しに行ったり
追い払いを行ったりします。

一番恐怖を覚えたのは
山ノ鼻地区にある
植物研究見本園の入り口にいた親子のクマのこと。

子供を守らなければならないと気が立っている親グマは
見本園の入り口で仁王立ちしていました。
周りにいた人々は
親グマがどんな心情なのかは想像していなかったようで、
近づこうとしたり、写真を撮ったり
はたまた大きな声を出したりしていて・・・。
わたしはクマスプレー一本でその人たちを守らなければと
その親グマと対峙していたのです
(もちろん目は合わせてはいませんが・・・)。

このときのことは今思い出しても本当に怖い。
もしかしたら飛びかかってくるかも・・・
そう覚悟を決めた出来事でした。

ツキノワグマの頻出により通行止めになった見本園


尾瀬でツキノワグマに出遭うようになって
日本のクマについて自主的にも勉強するようになりました。

あるクマの専門家の方が
「知れば知るほどおそろしい」
と言っていたけれど
まさにその通りで
動物の本能は勉強しても攻略できるものではないと
勉強をすればするほど思い知らされました。

もちろん彼らは勝手に襲ってくるわけではなく
自分を守るために人に攻撃してきたりするけれど
それは私たち人間が、彼らを驚かせたり
彼らに近づいていってしまっているから。

尾瀬にいるとこんな方にも出会います。

クマの写真を撮りにきました!
クマに会いたくてきました!

ツキノワグマについて注意喚起を行なっていた立場として
わたしは最初、耳を疑いました。

クマを愛するのであれば
わざわざ近づいていくということが
悲しい結果を招く可能性があることを知ってほしい。

もしも会いにいって
自分が襲われてしまったら
最悪の場合危険なクマとして殺されるかもしれません。

自分だけは大丈夫、は絶対に通用しないのです。

人間同士だって他人の心は読めないというのに
野生の動物がどんな気持ちなのか
何を考えているのかはもっとわかりません。

そしてもう一つヒヤッとすることは
子グマが可愛いと言って写真に撮っているのを見かけたとき。
その子グマのことを最も愛している親グマが
近くにいたらどうなってしまうのか・・・。

わたしはいつも自然の中にいくとき、
”貴重な自然環境の中にお邪魔させてもらっている”
ということと
”そこにはたくさんの野生のいのちがあって、
それはべつに人を楽しませるために存在している訳ではない”
ということを意識するようにしています。

そう、彼らは展示動物ではなく
尾瀬で普通に暮らしているだけなのです。

どうか、わたしたちのせいで
そのすみかもいのちも奪われずにいてもらいたい。

尾瀬でツキノワグマに出遭うとすごく怖いのだけれど
でもわたしはいつもこんなふうに願わずにはいられなくなります。


最後に・・・
シーズン中、ほぼ毎日尾瀬を歩く
とある歩荷さんが言っていた
とても印象に残っている言葉を置いておきます。

クマに会ったときはね
距離をとって向こうがいなくなってくれるまで待っているよ。
べつに追い払わなくても勝手にいなくなってくれるから。

(Oze Nature Interpreter:Hagiwara Mai)

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