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本を読んでも内容を忘れるという問題

 部屋を整理していたら、『精神科医が教える読んだら忘れない読書術』(樺沢紫苑著)という本が出てきました。そしてショックを受けました。この本を読んだことは覚えているのですが、本の内容を全然覚えていないのです。「読んだら忘れない読書術」という本なのに! 

 この本に限らず、本棚にある本を無作為に取り出して、その本の内容を説明しろと言われたら、どれくらい出来るでしょうか。僕の場合は、よほど好きで何度も読んだ本でなければ、うっすらとしか覚えていないか、全く忘れているかです。とても人に説明などできません。
 この本を買ったということは、本を読んでもしばらくすると内容を忘れてしまうということに対して問題意識があったのだと思いますが、全く役に立っていなかったのです。
 たくさん本を読んでも内容を忘れたら意味がないではないか、という焦りを感じました。

 というわけでこの本を再読してみました。結果として、この本の内容を忘れたのは、この本のせいではなく、僕がそこに書いてあることを実践しなかったからだということがわかりました。この本自体はいいことがたくさん書いてあるのでお勧めです。

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 同書には読書の効用や本の選び方などについても書いてあるのですが、ここでは「内容を忘れない」ということに絞って抜き出してみます。

アウトプットが記憶になる

 同書によると、さまざまな脳科学研究の結果、最初のインプットから7~10日以内に3~4回アウトプットすることが効果的な記憶術だということが明らかになっているそうです。

 アウトプットの具体的な方法として、「本の内容を人に話す」「感想やレビューを書いてFacebookやブログに掲載する」などが紹介されています。というわけで、今ここでアウトプットを試みているわけです。(これからも、これはという本があったらここで紹介したいと思います)
 アウトプットは必ずしも長い文章でなくても、Twitterのような短いものでもいいようです。僕はたまにTwitterで脚本の勉強になる本や映画を紹介することがありますが、確かに何か書くとその本や映画の内容の記憶は深まる気がします。

 他に記憶に残る読書術として、速く読むより深くじっくり読む方がいいと書いてあります。もうひとつ、「スキマ読書」が挙げられています。まとまった時間で読書するより、スキマ時間を利用して短い時間の読書を重ねる方が記憶は高まるそうです。これは自分の経験として「確かにそうだな」という感じはないので、今後確かめてみたいと思います。

忘れるのはそんなにまずいのか?

 本を読むことのいいところは、そこから色々なところに考えが発展して行くことです。同書を読むうちに、僕は「記憶」とか「忘れる」ということについて考え始めました。
 
 そんな中でふと思ったのは、「忘れるというのは本当にまずいことなのか?」ということです。

 人間の脳は、全ての情報を明確に記憶しようとするとキャパをオーバーしてしまうので、どうでもいいことは忘れるように出来ているようです。一週間前の昼食に何を食べたか思い出せないのはそのせいです。
 一方、印象的なことはなかなか忘れません。数年前の旅行先で食べたものを忘れないのはその食事自体が印象的だったか、周辺の状況が印象的だったのでそれと結びついているからでしょう。

 また、「忘れる」には二種類ある感じがします。ひとつは心の深いところに沈殿するような忘れ方。もうひとつはサラッと風に流されるように消えていく忘れ方です。
 前者の方は、忘れたといっても無意識の中には残っていて、ふとした拍子に出て来ます。また沈殿したものが積み重なって、何か新しいものが生み出されたりすることがあります。

 僕は映画を分析して、カードを千枚以上作りましたが、そのカードに書いたことを千個覚えているかというと、ほとんど覚えていません。ではカードを作ったことは無駄なのかというとそんなことはなく、「面白いとはこういうこと」という大きな能力を得た気がします。千枚のカードが、千個の記憶ではなく、面白い脚本が書けるというひとつの能力に変換されたのです。(そのカード作り方については拙著『3年でプロになる脚本術』で詳しく述べました)これは脳の中に沈殿して、新しいものに変質したという例でしょう。

 だから、忘れたから必ずしもダメとは言えないのです。一見忘れたようであっても脳の中に沈殿して行けば、それが積み重なって何かが生まれることがあるのです。それがセンスとか教養などと言われるものかもしれません。

 これは小説やエッセイなどの文芸作品については特に強く言えることで、詳細なストーリーを忘れても、それを読んだことが自分の実になっているということはあると思います。
 一方、実用書は実際にそこに書いてあるノウハウや知識が役に立たないと意味がないので、忘れずにいつでも記憶を取り出せるようにする必要があるでしょう。
 
考えることの大切さ

 これは僕個人の感覚ですが、「これはどういうことだろう」「こうだろうか?」などと考え、「そうか、わかった」と把握したものは、忘れても消えずに沈殿する可能性が高い気がします。先に書いた映画を分析したカードは、考えて、さらに紙に書くという作業を経ることによって、沈殿の方に回ったのだと思います。
 一方、考えずに目の前を通り過ぎるだけのものは風に飛ばされるように消えて行くのです。人は気軽に「考える」と言いますが、考えた結果が仮に忘れても頭の中に沈殿しているか。それが本当に考えたかどうかのバロメーターになるのではないでしょうか。

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