【旅レポ】英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン その⑪
前回までのあらすじ;ロンドンにて正月を迎えたお湯とマツジュンは、展望台の高度ではなく、入場料の高さに恐れ慄いていた。
その22「マツジュン、中学生英語を披露する事件」
2020年1月2日。帰国予定の便が出発する日です。さて、この日までにやり残したことが3つほどあり、
「けいおん!のレストランで朝食をいただく」
「本場のアフタヌーンティーをいただく」
「イギリスで働く先輩とフィッシュ&チップスをいただく」
と、これをこの日中になんとかする必要があります。何も考えずに旅程を消化して行った結果、大食い企画のような最終日となってしまいました。しかし、泣いても笑ってもイギリスで過ごせるのはこれが最終日。この3つを、やり切ります。耐えろ胃袋。
ひとまず朝はホテルのレストランでビュッフェを頂戴しました。「映画けいおん!」で唯と梓が食事をしていた場所です。価格は当時の日本円で3,000円程度だったかと記憶していますが、ホテルの朝食ならこんなもんでしょう。相応の価格でけいおん!のロケ地巡りができて腹も満たせるなら一石二鳥です。ブリティッシュな食事をいただけて満足でした。
さて、朝食後に部屋に戻った我々は荷造りをしつつ、今日どこかでアフタヌーンティーがいただけないかを検索します。アフタヌーンティーは要約が必須なので、いけそうなところをマツジュンが見つけてくれて電話をかけます。
マツジュン「こんにちは。今日のお昼にアフタヌーンティーを予約したいのですが、空席はありますか」(英語)
電話口の英国人「アフタヌーンティーを、今日かい? ああ、空いてる席があるから予約を承るよ。人数は何人だい…」(英語) マツジュンはこんな調子で英語でハキハキ、つつがなく予約を終了しました。
そして僕は頭を抱えていました。
セリフの後に(英語)とつけたことで会話が成立しているように見えるのですが、実はこれはかなりの力技と善意でで意訳しているのです。
仮にもマツジュンはマスターの学位を持っている男なので、僕はてっきり「Can I make a reservation for afternoon tea today?」くらいの文章を作ってくれるものとばかり思っていましたが、マツジュンが実際に電話口で喋っていたのは
「Hi, I want to eat afternoon tea today ,OK?」
(こんにちは。今日のお昼にアフタヌーンティーを予約したいのですが、空席はありますか)
これには電話口の英国人もびっくりです。「なんとかストーン」事件が脳裏をよぎり、ディスコミュニケーションのトラウマで身震いが走りました。
しかしまあ、言いたいことは伝わらないことはない文章ではあります。電話口の英国人のおじさまは我々のような英語ヨワヨワ人間の言いたいことを汲み取ってくださり、上記の通りスムーズに予約を受けてくれたわけです。
おじさまの洞察力に感謝。マツジュンが英語で予約をとってくれたおかげで、お昼くらいにはサロンで優雅なひと時を過ごすことができました。ダージリンというアフタヌーンティー大好きキャラがいたため、彼女に思いを馳せてガールズ&パンツァーの話をしました。(イギリスに来てまで何アニメの話してるんだ)。
(その22「マツジュン、中学生英語を披露する事件」おわり)
その23「先輩のせいでフィッシュアンドチップスを食べ損ねかけた事件」
本稿を執筆時、記憶によるとアフタヌーンティーをしてから先輩とご飯を食べに行ったと思いこんでいたのですが、写真を見ていたらどうやらご飯を食べてからアフタヌーンティーに行ったようです。
冷静に考えたら、イベントの詰まり方を考えるとその順番以外ありえないのですが、まあもう前の章を執筆してしまったので時を戻しましょう。
お昼時、仕事でロンドンに駐在している先輩が郊外から会いに来てくれたので、先輩おすすめのフィッシュ・アンド・チップス屋さんを訪れていました。先輩が「予約していた◯◯ですが」と受付してくれます。
きちんと金を払えば、ロンドンの料理もそこまで悪いものではないと学習した我々は、現地住まいの先輩の舌を信じ切ってワクワクを隠しきれませんでした。
「おまたせ」
先輩がこちらへ向かってきます。
「入れなかったわ」
先輩はそう言って、外へ出ていこうとします。
「いやいや! ちょっと待ってくださいよ」
「席が用意できないって言ってる」
「予約してあったんなら…」
「予約はしてあったんだけどねえ…」
店側の不手際ということでしょうか。だったらもう少し食い下がっても良いものを、あまりに素直な退店に僕は面食らいました。
「隣町の別の店舗で予約してたっぽいんだよね」
照れくさそうに、先輩がはにかんでみせました。
先輩は、そういう人でした。なので、「なら、しかたないか」と不思議と納得感が芽生え、そのへんのチェーンのフィッシュ・アンド・チップスを食べて談笑して帰りました。あまりに肩の力が抜けたため、写真を撮り忘れました。
後日というか、数年後、この先輩は(ついでとはいえ)わざわざロンドンへ会いにいった我々に一言の挨拶もなく帰国し、日本で暮らしていることが人づてに判明したことがありました。それでも「まあ、そういう人だし」「なら、しかたないか」と思わせる不思議な人物でしたので、それも人望というか一種の人間的な魅力がなせるわざなんだろうな、と勉強になった1件でした。
(その23「先輩のせいでフィッシュアンドチップスを食べ損ねかけた事件」おわり)
その24「お湯、ホテル従業員のお姉さんにパンツと言い放つ事件」
諸々の会食を経て、時間はもう夕方です。僕はホテルへ戻りました。帰国するためスーツケースを回収しに行ったのです。
ホテルのロビーに戻ると、そんなに威圧的ではないお姉さんが応対してくれました。
「スーツケースを取りに来たのですが」
そこで気が付きました。朝、荷物を預けるときにもらった引換券を失くしていることに。
「引換券を出してもらえるかしら?」
お姉さんが言います。
「あー…ちょっと失くしちゃって」
にわかにお姉さんの表情が曇ります。「まずいことになった」と僕は焦ります。時間に余裕を見て動いているとはいえ、国際線の出発が待っているときに妙なトラブルを起こしたくはありません。
「ついてきて」
僕は言われるがままにバックヤードへ向かうお姉さんについていきました。
「どれがあなたのカバンなのかしら」
お姉さんは、荷物預かり所に僕を連れて行くと、そう言いました。「sれ? これはワンチャンそのまま返してくれるやつか?」と思いつつ、僕は周囲を見渡し、白くて映画のポスターシールが張ってある自分のスーツケースを見つけ、指さしました。「これです。この映画のシールが張ってあるやつです」と。そのまま持っていけ、と言われることを祈りながら。
「なるほど、その中に入っている、あなただけが知っている特別なアイテムはあるかしら」
お姉さんはタダでは荷物を渡してくれるつもりはないようでした。
「何だ、その質問は?」
と言いそうになりましたが、焦りで頭もうまく回っていませんでしたし、ええと、カバンに何をつめたんだっけ。たしか服を脱いで、
「パンツと…」
なんだっけ、なんだっけ。思い出そうとして一番初めに頭に浮かんだものがパンツだったので、とにかくそのことを伝えました。しかし、あまりに頭が回っていなかったのでそれ以上の言葉が出てきません。
「パンツは…入っていますね」
眉間にシワを寄せていたお姉さんも、流石に「パンツが入っています」とだけ伝えられて放置された状況に耐えきれなくなって吹き出しかけていました。が、こっちはスーツケースが自分のものであることを証明できなければホテルを出ることが出来ないのでそれどころではありません。働かない頭をフル回転させています。でも、一生懸命考えてもパンツしか出てこないのです。あ、そうだ。
「そうだ、ガイドブックが入っています。アイスランド行きのガイドブックが入っています。アイスランドに行く予定だったので!」
そうです。我々の旅の目的は、アイスランドに行くことだったのです。アイスラン用のガイドブックがドンピシャで出てきたら、さすがに自分の荷物であることが証明できるでしょう。
「見ていて下さい。一番上にアイスランドのガイドブックが入っていますから」
僕はそう宣言し、ショルダーバックからスーツケースの鍵を取り出し錠を開け、ガイドブックを取り出そうとしました。するとお姉さんは
「なんだ、スーツケースを開けられるのならあなたのものじゃない。持っていっていいわよ」といとも簡単に僕を解放しました。
パンツと言わされた僕はなんだったのでしょうか。最初から「鍵を出せ」でよかったのではないでしょうか。いや、パンツと勝手に言っていたのは僕なのですが…。
ともかく、結果オーライで自分の荷物を証明することが出来た僕は無事にヒースローへ向かうこととなりました。
マツジュンはこの後、単身パリに向かうということで(元気すぎるだろ)僕一人の帰路でした。プライオリティパスがあったのでラウンジに入るなどしましたが、どうせ機内食をたらふく食べるのでデトックスウォーターだけで我慢しました。
(その24「お湯、ホテル従業員のお姉さんにパンツと言い放つ事件」おわり)
その25「この旅のおわりに」
早く完結させたいがために半ば強引に終局を迎えた本シリーズだが、この直後にコロナが流行し、全世界的に交通網が封鎖されたことは皆が周知のとおりである。
その中で、遠方へのお出かけに思いを馳せるために始めた本シリーズだが、人間というものはたくましいもので、いつの間にやら国際線の行き来も回復を見せ、そういう筆者本人もこのシリーズの完結を待つことなくイタリアへ旅行に行ったところである。
幸いにしてイタリア旅行は、2019年のロンドンほど事件がなかったため、旅レポを書くつもりはないが(なにせ、本当に何事もなかったので書くネタがないのだ)、このような膝栗毛がレアリティというか、特別性を持たないような世の中に戻ったことは喜ばしいことである。
ここまでいろんなことがある旅行は疲れるが、こうしてものを書くネタにもなるので、ドタバタな旅ももう一度くらいは行ってもいいのかもしれない。・・・・・・本当に?
(英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン おわり)
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