ぼくの空はいつもグレー
だからと言って、何が起きるわけでもない。目を閉じたのがさっきだったはずなのに、もう起き上がらなくてはいけない時間だった。目覚ましはまたあと5分後には鳴り出すのだろう、私はそれが残り3分に迫ったところで、なんとか布団を抜けだした。
私の母が私を起こしに来ていた時代はいつだったか、あの時のほうが目覚めが良かった気もする。もう何年もこんな朝を過ごしているはずなのに、私は慣れていない。体が学習しないのか、頭が学習しないのか。
重たいのは体でも胃でもなく、いつでも心だった。特別なことはない、だけど、だるい。生きている、ことが、だるいよ。
「ねぇ、あと1センチ右にずらしてみ。」
角を曲がったところに誰かいる。声が聞こえた。
「ああ捕まっちゃったんだ。あそこで手なんて繋ぐからよ。私達は私達で生きていくのよ。そうイズムよ。感じて?」
「感じて、感じて、感じたい。生きたい生きたいよ。」叫びが聞こえた。
家を出てから、少し歩いて、緩やかな坂の途中だった。
思い出してみると、その前後の記憶はないのに鮮明にその言葉が頭に響き続けている。見てもいない、声しか聞いていないのに、頭には見てもいないはずの映像が浮かぶ。彼は生きていた。あそこで。彼は叫んでいた。生きたいと。
響いた声に気を取られないフリをして、誰にも見られていないのに、髪を触って耳をかき、声を素通りした。
誰かに、私はそういったことを素通りしてクールに生きていける。動揺なんてしない、人間であると、知ってもらいたくて澄ました顔で二人のもとを去った。
寒い日だった、風が刺さるようだった、幅広めのマフラーを広げて耳から下をすっぽりと覆った。
彼は、彼らは、生きていたんだなぁ。私も生きるかなあ。ドアを開けて、今日も働くのだ。
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