ショートショート『釣られたガール』
彼女の命を救うのと引き換えに、私も生き返った。
呼吸が安定し意識が戻ると、数秒前の記憶が濁流のように流れ込んできた。
陽を跳ね返す大きな川を横切る大きな橋。その橋の下に、ひとりの女性が立っていた。
サラサラと油気のない髪を靡かせながら、釣りをしていた。帽子から靴まで何ひとつ汚れがついていない彼女は、明らかに釣り初心者だった。
覚束ない手つきで、美味そうな餌を針につける。釣り竿を持ち、思いっきり振ったが、遠くには飛ばず目の前に落ちた。
「姉ちゃん釣りやってんの?俺たちも混ぜてよ」
派手な髪色に、派手な服、明らかに釣り目的ではない輩が女性を取り囲んだ。
ひとりは女性の釣り道具を触り、ひとりは女性の胸辺りを直視し、ひとりは私を眺めていた。
だめだ。だめだ。わかっているのに。
遺伝子単位で刻まれたプログラムが、私を突き動かした。気付いた時にはすでに行動している。いつもそうだ。何かはわからないが、私の中に引っかかるものがある。
「やめてください」
必死に抵抗した。体中のあらゆる筋肉を動かし、取り巻く輩の顔めがけて攻撃した。
「いってーな。何すんだよ」
彼女も釣り竿を使って抵抗していた。
「ちっ。つまんな、帰ろうぜ」
輩が去っていき、彼女は膝を落とした。
久しぶりに馬鹿力で抵抗し、私の体が半分動かなくなり、意識が半分飛んでいた。
こうなるとはわかっていたのに。
「助かった」
耳も疲弊したのか、彼女の声が遠くから聞こえてくるように感じる。
彼女の放つ音の意味はわからなかったが、感謝されているのは何となくわかった。
彼女は空を飛んでいた私を掴み、川に戻した。
––––完––––
お馴染みのSheafさんの #ストーリー種 から、『彼女の命を救うのと引き換えに、私も生き返った』をお借りして創作しました。
他にもストーリーの種をお借りして創作した作品があります。よかったら、是非。
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