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ショートショート『消しゴム大増殖』

 いかに大きな練り消しを作れるか。これが、日本男児が最初に行う研究内容なのは間違いない。

 本来消しゴムは、誤りを訂正するもの。書き間違えた箇所を消すことで、ノートの節約が可能になる、勉強を支える必須ツールである。

 だが、誰から教わったわけでもないのに、不真面目な小学生が消しカスで作られた団子の大きさを競う合う文化が、いつの時代にも突如として現れる。

 意図的に黒塗りしたノートを擦ることで消しカスを生成する者。固まりやすくするために水を加えながら練る者。ひたすら捏ねて練り消しに光沢を出す者。

 各々が試行錯誤を重ね、最高の練り消しを作り上げる。研究とも呼べる、創造とも呼べる奇妙な行為が、世の男子小学生の恒例行事だった。

 だがそれも小学生まで。中学生にあがると練り消しの価値は薄くなり、作られなくなる。部活やら恋愛やら、もっと刺激的な出来事に目を向ける。


「やっと出来た」

 この少年は違った。中学3年になっても練り消しを作り続け、夏休みおわりの始業式、彼はサッカーボールサイズの練り消しを作り上げた。

 小学2年生から中学3年になるまでの8年間分の消しカスがひとつになった練り消しを、地元メディアは取り上げた。

 最初は小さな街の小さな新聞の片隅に載せられた些細な情報だったが、口コミが口コミを呼び瞬く間に時の人となった。

 中学生で有名人になった彼は、高校になっても練り消しを作り続け、大学ではさらに専門的に研究した。


 そして30年後の現在。彼が第一人者でもある『練り消し学』が立派な学問として確立し、日本の半数が『練り消し学』を主に研究する、消しゴム大学となった。





––––完––––

爪毛川太さんの #爪毛の挑戦状 に参加しました(2回目)。

「消しゴム大 / 増殖」という切り方で書いてみました。

 




前回のはこちら。


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