220329 家がない

僕には今家がない。

この4月から僕は東京で社会人になる。
しかし会社の寮に入れるのは、3月31日かららしい。
なので、それまではビジネスホテルに泊まっている。

このホテルは東京にやってきた3月26日に予約をし、3月27日から宿泊している。

3月26日、僕は弱っていた。
見ず知らずの土地で1人、帰る家もない。
漠然とした恐怖と不安感に押しつぶされ、しかし弱音を上げることもできず居た。

ホテルを取らなければならない。
都会であり、かつ直前の予約ということもあり、どこのホテルも価格が高い。

経済的な余裕はない。
可能であれば31日までの間、周辺で最も安いホテルを転々としながら暮らしたかった。

しかしそんな精神的な余裕はなかった。
人間は暮らしの拠点を持たないと、これほど不安定になるのか。

僕は比較的安く、ハズレのなさそうな全国展開しているホテルを5連泊で予約した。

多少お金を払ってでも、心の安定を優先した。

札幌の家を引き払い、東京でホテルを探している間、僕は本当に苦しかった。
ベースキャンプが、遠く離れてしまう不安感は非日常の究極だ。

陳腐な例えだが、Minecraftでベッドを破壊した感覚だった。
Minecraftとはオープンワールドのゲームで、
ゲームを始めると主人公はスポーン地点と呼ばれるその世界の中心で生まれる。
事故や敵の攻撃によって主人公が息絶えてしまうと、スポーン地点からリスタートとなる。

しかし、ゲームを進めていく中で、フィールド上にベッドを設置することで、スポーン地点を新たに設定することができる。
なのでプレーヤーは新たな拠点を作る際は、ベッドを置き、そこで一晩を過ごす。すると、それ以降は主人公が絶命し、ゲームオーバーになっても、ベッドからゲームを再開することができる。
しかし、このベッドを破壊すると、スポーン地点がゲーム開始時のものに戻ってしまう。

僕は高校を卒業するまで、大阪で育った。
大学進学を機に北海道へと移住したが、今回同様、札幌最初の夜は不安に押しつぶされていた。
ふと頭の中に日本地図を思い浮かべ、大変なことになってしまった。
こんな日本の端っこで生きていけるのだろうか...と考えていた。
しかし翌日には、とりあえず札幌の街を散策してみようと、思えるほどにはケロッとしていた。

これは多分、スポーン地点の変更が行われたんだろう。
一度眠った場所を僕は、拠点と考えられる。

そのため、札幌にいることの不安感は2日目には消え去っていた。

今回の上京もそうだ。
札幌の家を引き払い、僕のスポーン地点は大阪に戻ってしまった。
そのため、東京にいる自分が遠い辺境の地に来てしまったようだった。

しかし、ホテルに泊まった翌朝には、かなり精神的にも安定していた。

案外、人生はマイクラなのかもしれない。


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