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オススメの本100冊(感想文付き)〈文学Ⅳ)

※専門書は除いています。
※ややネタバレです。


【41】ガルシア=マルケス『百年の孤独』

「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、この物語は小説の奇怪さと、まるで事実かのようなリアリズムを併せ持っている。無数の民話という具材を一緒くたに大鍋の中に入れ、グツグツと煮込んだらできあがるかのような物語。その熱量と濃厚さに圧倒される。エピソードが無数にあり乱雑になりがちであるが、6代にわたるブエンディア家の興亡という軸があるので、実はけっこう読みやすいと思った。


【42】カルヴィーノ『不在の騎士』

「まっぷたつの子爵」が善と悪の物語なのならば、この「不在の騎士」は不在と実在の物語なのだろうが、そんなことはとりあえず抜きにして、とにかく語り部の自在な語り口、あっといわせる仕掛けに、夢中になってしまった。騎士譚のパロディでありながら、騎士譚という冒険ものの楽しさも踏襲しててグッド。いやあ面白かった。


【43】カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』

文字通り子爵の肉体が戦争によってまっぷたつに割かれるのだが、片方の子爵は悪行の限りを尽くし、片方の子爵は美徳を強要して、領民を振り回す。人間は悪徳だけでも、美徳だけでも生きていけない。両方をわきまえている人間こそが、人間らしい人間なのである。 民話らしいプリミティブさと乱雑さを持ちながら、しっかり人間の心の在り方に切り込んでいる。それでいて教訓じみていないところも素晴らしい。

【44】カミュ『異邦人』

我々はいつの間にか、深く考えもせずに慣習に束縛されている。宣教師には「わが父」と呼び、恋人には「愛している」といい、親族の葬式では泣くべきだとされている。その慣習が、人間の主体性を奪っている。カミュはそう言いたいのだと思う。 ただ、慣習という漠然としたコンセンサスがあってはじめて、人間は傷つけあわずに生きて行けるのだとも、思う。自分の心に忠実でなくても、人の気持ちを考え、葬式の次の日は喪に服すのも、社会に生きる人間のあるべき姿なのかなとは思う。小学生の感想文のようで申し訳ないが、大事なことである。

【45】カミュ『ペスト』

キリスト教の信仰も、人間中心主義も、個人的な幸福も、ヒロイズムをも排して、一貫して「自分の職務」を果たすことが肝心だと念じ、行動する医師リウー。登場人物がそれぞれ何かを象徴しているのだが、そうは見せないほどの迫真性がこの小説の強み。人間は軽蔑すべきものより賛美する者の方が多いと結論付けるが、どんな時も自分の「職務」のために生きることができるか、厳しい問いも突き付けているように思う。


【46】ヘミングウェイ『日はまた昇る』


構図の勝利だと思った。性欲を御せられない美女ブレッドと彼女を愛するが性的不能なジェイクという構図も見事なのに、金にだらしないマイク、情念と暴力を律しられないコーンがからむ。そんな自堕落な世代(Lost Generation)のパリのアメリカ人は、闘牛士ロメロの肉体的・精神的節度の前になすすべもない。 闘牛とフィエスタ(祭)と陽光の力強さがテーマのようにみえて、それに対して無力なパリのアメリカ人の無力さ、不毛さがテーマなのである。


【47】安倍公房『人間そっくり』

現代社会の我々の整合性というか、構造を根本から揺るがしてみるとどうなるか、という壮大な実験にも思えた。何が正気で何が狂気なのかというテーマは、本作からコンビニ人間まで、脈々と受け継がれているように思う。とまれ、面白かった。


【48】サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』

大人の欺瞞に敏感な一方、子供の無垢さに固執し、無垢な子供がライ麦畑から墜落しないように子供を捕まえる「ライ麦畑のキャッチャー」になりたいと願う主人公。しかしその無垢さへの執着が、結果的に大人になることを阻害している。そうした精神構造がとてもうまく表現されているように思う。だいたい子供の無垢さというのはどこまで実体のあるものだろうか、そのあたりに気付かない主人公はかなり危うい。


【49】エルヴェル・テリエ『異常【アノマリー】』

SFとしての着想が見事だったし、面白かった。ただ群像劇の風呂敷を広げすぎたかな。伏線を回収するカタルシス的なものは得られなかった。一つ一つのエピソードは興味深かったし、アイロニーやユーモアも非常に長けていた。しかしネタバレだから書けないけど、着想のような事態に直面した時の人間の態度みたいなものをもっと深掘りできたようにも思う。


【50】カズオ・イシグロ『クララとお日さま』

少女とロボットとの美しい友情物語である。しかし同時に、ロボットは人間に供するためにだけ行動するというロボットにとってのディストピア小説である。ロボットだけでなく、遺伝子工学?により改良された人間とされなかった人間に軋轢が生じたり、生身の人間をロボットに身代わりさせようとしたりと、テクノロジーにより引き裂かれてしまった人間の哀しみも繊細に描写されている。美しい描写の中で、そっと登場人物に残酷な運命をしょわせるところが『わたしを離さないで』の手法に似ていて、うまく機能している。

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