オススメの本100冊(感想文付き)〈ノンフィクション〉
※専門書は除いています。
※ややネタバレありです。
【81】『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』
勝利至上主義故につまらないと言われた落合野球。本人も禅問答のような言質しか行わないため、多くの選手やファン、そして記者を当惑させる。しかし落合はあくまでもプロフェッショナルだった。そしてプロフェッショナルと認めた人物にしか心を開かなかった。それが落合野球の強さであり、限界でもあった。圧巻のノンフィクションだった。
【82】筒香嘉智『空に向かってかっとばせ!未来のアスリートたちへ』
硬式ボール、金属バット、トーナメント制、長時間練習、シートノック、筋トレ…筒香選手が少中高生野球に投げかけている疑問は数知れない。▼しかし筒香選手は決してネガティブな動機で直言しているのではない。野球は本来楽しいものというドミニカでの実体験が彼を動かしている。▼コーチングの難しさも考えさせられた。筒香選手があのまま一軍打撃コーチの指導に従っていれば、大打者筒香の誕生もなかったかも。▼結論としては、練習方法も打撃理論も大人まかせではなく、自分で考えること。これは教育全般にもいえることかもしれない。
【83】河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
「栗城をトリックスターとして造形した主犯は誰か。河野自身だ」と森達也氏は指摘するが、まったくその通りに思えた。登山家・栗城という「虚像」を造り出したのは、「七大陸最高峰単独無酸素登頂」という掛け声を鵜呑みにし、美化し、疑惑が上がっても検証しようとしなかった河野氏はじめ、マスメディアの責任ではなかったのか。栗城氏の虚像と実像に迫った河野氏の筆力は見事だが、反省はするものの検証しようとしない点は片手落ちだと思った。衝撃の事実が明かされる結末をはじめ、ノンフィクション作品としては見事な出来栄えだが。
【84】中村哲『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』
アフガニスタンでの用水事業に身をささげた中村哲さんのドキュメンタリ。彼の挺身の努力から考えると「インフラビジネス」「復興支援」という言葉も空々しく感じる。本当に現地の人々に寄り添って、体を動かして、その目で確かめて行動しないと、理想論、絵空事に終わってしまう。ジャーナリストとしてのまなざしも鋭い。
【85】澤田晃宏『東京を捨てる-コロナ移住のリアル』
東京を捨てるというタイトルだが、自然や農業に魅せられて移住して人もいれば、災害が怖くて移住して人、東京を捨てきれないから近隣県から通う人など、地方移住にも多様性がある。ウサギ小屋、満員電車の東京のリアルを描くと同時に、一見理想郷の田舎のコストを含めたデメリットなども詳細に描いていて、とても興味深い本だった。
【86】井川意高『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』
大王製紙の創業家出身で、106億8000万円を子会社から金を借入れてカジノに突っ込み、2011年に逮捕された井川意高・大王製紙元会長の手記。矛盾多き人物で、自己顕示欲が強く、責任感の欠如が目立った。それにしても一番驚きなのは、会社を失い、株も財産も失った創業家の3代目として、創業者や息子・娘に対して一言もないのだろうか。父親に対しては恨み節ばかりだし。今でも飲み歩いてインスタに挙げて、カジノ法などに一家言もっているみたいだし。強い人だなと思う。それは確かに、すごい。
【87】為末大『諦める力』
「可能性は無限大」「頑張れば夢は叶う」というのは明らかに正しくない。正しくないのに、大人たちは無責任に子供に追い立てる。それでがんじがらめになって、他の選択肢を選ぶことができなくなってしまう。アスリートの世界は狭き門だし、生まれつきの才能に左右されるし、選手寿命が短いしなおさらそうだろう。戦えるフィールドを選ぶことと、あきらめることとは違う。そんな当たり前のことを為末氏は気づかせてくれる。
【88】ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』
起業家、発明家、イノベーター、経営者と様々な角度から考察すべき人物だが、プロダクトやリテールショップのデザインのディテールをここまで追求したのは、消費者の「五感」を尊重していたからだと思う。冷酷な一面もあったが、そういう意味では人間の温かみを尊重した人物だった。
【89】冷たい戦争から熱い平和へ:プーチンとオバマ、トランプの米露外交
オバマ政権下で「リセット」(米露関係の正常化)を目指したアメリカ人外交官の回顧録。リセットはプーチンの疑心暗鬼によって遠のき、むしろウクライナ侵略という破局に終わる。著者は主にプーチン個人の反米政策に責任を帰しているが、アメリカの民主主義を「普遍的価値」と盲信し、啓蒙しようといたことへのロシアの反発と見えはしないか。そして著者は親米化に失敗したニクソン以来の中国の存在を全く念頭に置いていない。やはり理想家の末路と言えなくもない。
【90】金 敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義 「無限競争社会」の苦悩』
韓国人自らヘル朝鮮と自嘲するディストピアのような競争社会。子供は夜中まで塾まわり、就職は絶望的に厳しく、万が一大財閥に入っても50代には退出の危機が訪れる。高齢者は70過ぎまでゴミ回収して若者からさげずまれる。これは新自由主義の行き過ぎではなく、粉飾された資本主義だ。学歴や財閥主義なんて実力主義と関係ない。いやいや、まいった。優れた大企業も多い韓国だが、どうやらベンチマークにすべきではなさそうだ。
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