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成功する「ブランド拡張」とは ライザップ、タニタ、ボスの事例から学ぶ

すでに確立しているブランドを新しい製品・サービスに使用することを「ブランド拡張」といいます。今回は古今東西、数ある事例を取り上げるとともに、メリットとデメリットを挙げてみましょう。

エルメスとディズニーの華麗な変身

エルメスは19世紀の創業当時、馬具工房だったことをご存じでしょうか。ナポレオン三世など皇室御用達の高級馬具メーカーとして繁栄していたエルメスはしかし、自動車産業の到来と馬車の衰退を見越し、バッグや財布などの革製品へ参入します。馬車の鞍などの精巧で美しい製品の工房であるというイメージ、そして何より皇室御用達の高級感のあるイメージを生かして、ファションブランドへの華麗な変身を遂げたのです。主力は今や高級アクセサリーや高級衣料品ですが、馬具工房だった名残は今でも、ブランドのロゴに残されています。
ブランド論の大家・デービッド・アーカーが「おそらく歴史上最も重要と言えるブランド拡張」(『ブランド論』)と呼んだのは、1955年のディズニーランドの開業です。それまで漫画・アニメ映画の制作会社だったディズニーは、その世界観を生かし、テーマパーク「ディズニーランド」という新事業に参入します。そこからブランドは活性化し、ショップ、ホテル、豪華客船、テレビショー/チャンネルにまでブランドが拡張します。
このように、すでに確立されたブランドを他の製品やカテゴリーに使用することを「ブランド拡張」といいます。エルメスは馬具ブランドからアクセサリー、衣料品にブランド拡張させましたが、高級ファッションブランドのブランド拡張は一般的で、ジョルジオ・アルマーニはアパレルをスタートに、メガネ、腕時計、化粧品、ホテル、家具、お菓子、花屋とブランド拡張しましたし、カバンやバッグのルイ・ヴィトンはアパレルや腕時計までブランドを拡張しました。一方キャラクタービジネスでは、ディズニーランドの成功に、サンリオやユニバーサル・スタジオ・ジャパン、レゴなどのテーマパークが追従しています。

ファッション業界や食品メーカーでは極めて一般的

ファッションブランドと同様、食品メーカーにおけるブランド拡張は極めて一般的です。例えば不二家のミルキーはキャンディからスタートし、チョコレート、クッキー、アイスクリーム、ドリンク、クリームパンまで拡張しています。カルピスは乳酸菌飲料からアイス、キャンディ、そしてサプリメントまで拡張しています。最近話題になっているのは缶コーヒーの強力なブランドだったサントリーのボスで、ペットボトルのクラフトコーヒーからクラフト紅茶、そしてエナジードリンクにまで拡張しています。
多角化事業を同じブランドで行う事例は枚挙にいとまがありません。ソニー(映画、自動車保険等)、ヤマハ(楽器、音楽教室、ボート、バイク)、富士フイルム(画像処理システム、化粧品、医薬品)、ホンダ(自動車、芝刈り機)などなど。
こうしてみると同じブランドを使った多角化事業も「ブランド拡張」といえそうですが、単なる多角化事業との違いは、既存のブランド資産(ブランド・エクイティ)を有効に使うことです。具体的にいうと、ブランドの認知度やブランド連想をいかに生かして、他の製品やテリトリーに参入していくかが、ポイントになるでしょう。

カギはブランドの「認知度」と「連想」

ここでブランドの認知度とブランド連想を生かした事例を3つ挙げたいと思います。


ライザップ
フィットネスジムのライザップは、芸能人の成功事例を使った派手なCMと、マンツーマン指導で成果を約束するモデルで、一躍ブランドの認知度を高めました。そこからダイエット志向の食品などにも進出します。
しかし面白いのは、そこから英会話教室やゴルフ教室にブランド拡張したことです。ライザップは「自分投資産業」と事業を位置付けていますが、英会話もゴルフも、多くの人にとっては「三日坊主」になりがち。そこでマンツーマンの厳しい指導で成果を保証してくれるというライザップのブランド連想が生きたのです。ライザップグループはM&Aによる果敢な多角化経営があだとなり低迷していますが、業態を超えたブランド拡張の良い事例といえるでしょう。


タニタ
タニタは体重計などで有名なメーカーでしたが、そこからブランド連想させ、タニタの社員はカロリーを抑えた健康的な食事をしているというイメージを消費者に訴えます。そこからカロリー制限をした食事を提供する食堂「タニタ食堂」や「タニタカフェ」など飲食業に進出します。「タニタ食堂」は東京・丸の内の店舗では行列ができるほどの話題を博し、全国に7店舗を構えるようになりました。タニタのトップによるメッセージも「『健康を図る』から『健康を作る』へ。」と事業領域の変革を唱えています。

メリットとデメリット―「ボス」のエナジードリンクは成功するか

ブランド拡張の事例を見てきました。ここでブランド拡張のメリットとデメリットを挙げてみましょう。

メリット①経営資源の節約
市場開拓の時間と資源を節約できるということです。新しいブランドを開発し、広告宣伝を費やすよりも、消費者の認知度が高く連想されやすいブランドを使用したほうが、時間もコストもかかりません。例えば不二家がチョコレート製品を新開発する際、新しくブランドを開発しテレビCMを流すよりも、既存の「ペコちゃん」のキャラクターと「ミルキー」のブランド名を使った方がコスト面では良いという判断があったと思われます。

メリット②新しい製品やサービスの認知度を高める
新しい製品やサービスでも消費者に認知されやすいです。例えば乳酸菌飲料のカルピスが健康サプリメントを販売すれば、その認知度とブランド連想から手に取ってくれる可能性が高いです。ヤマハの音楽教室や、ライザップの英会話教室は、無名の教室よりも有利に働いたと思われます。

メリット③元のブランドを活性化させる
タニタにとってタニタ食堂は大きな事業の柱にはなっていないかもしれません。しかし「健康をつくる会社」というブランドを確立でき、本業の体重計などの売り上げに大きく寄与していると思われます。

そしてデメリットは以下の可能性です。

デメリット 元のブランドを傷づける可能性がある

誤ったブランド拡張を行うと、既存のブランド連想を傷つけたり薄めたりしてしまう恐れがあります。
サントリー「ボス」はどうでしょうか。ブルーカラーの消費者に強力に支持されていた缶コーヒーのボスですが、ホワイトカラー向けのペットボトルコーヒー「クラフトボス」で大成功を収めました。サントリーはそこからボス・ブランドを「働く人に。」と再定義し、紅茶やエナジードリンクまで拡張しています。
果たしてこのブランド拡張はうまくいくのでしょうか。男女を問わず工事現場の人からオフィスワーカーまで支持されるブランドになるのか、それとも缶コーヒーの強力なブランド連想が損なわれてしまうのか。ブランド拡張の事例として注目してみていきたいです。

ブランドの変革を促す

エドワード・タウバー氏によると
「ブランドは今や参入障壁となった。だが同時に、ブランドは参入の手段である」
(デービッド・アーカー『ブランド論』)
とのことです。安易なブランド拡張は避けたいところですが、ブランド資産を生かしたブランド拡張は事業の多角化を可能にするだけでなく、新規事業への変革にもつながります。
エルメスが馬具に固執していたらどうだったでしょうか。トヨタが自動織機に固執していたらどうだったでしょうか。あなたの会社のブランドを生かし、新規市場へ果敢に挑戦することも、視野に入れるべきです。

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