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うちも一人しかいないよ?

人生で初めて男性アイドルグループにハマってしまった。これまでは女性アイドルグループが新しく出るたびにミュージックビデオを見ては憧れとわくわくを感じてきたが、異性のアイドルはまた違ったエンタメを提供してくれる。痛々しいと言われようと、リアルの恋愛が難しくなろうと、一向にかまわないと思えるくらいには楽しい。

一人で動画を見ているだけでもニヤニヤしている自分に気づいてしまうくらいの推し活動だが、友人と推しにまつわる事柄を共有できるのは更に楽しい。知らない人からしたら興味のない、どうでもいい話題を同じくらい気持ち悪い熱量で話せる人がいるというのは、思った以上に嬉しく、興奮するものだった。

 推しグループがコラボカフェを開催する、と聞きつけた私は熾烈なチケット争奪戦を勝ち取り、勇ましく渋谷タワーレコードカフェに赴いた。今回同行してくれた友人は、中高時代からのつきあいで、好きな芸能人が阿部寛とベネディクト・カンバーバッチと少しどころか相当特殊な好みをしているので、まさか同じアイドルにハマる日が来るとは思ってもいなかった。推しのサインに沸いたり、メンバーの考案したカフェメニューを頼んだり、店内の推しの写真をパシャパシャしたり、成人女性としてはなかなか見られないくらいにはテンション高く楽しんでいた。

食事の途中、ずらりと貼られたメンバーの写真を見ながら、友人が「○○君とつきあいたいな~~~」などとふざけたことを言い出した。あまりにも何度も言うので、「何言ってんの!○○君は一人しかいないんだよ!」とツッコミを入れる羽目になった。

しかし。「いやでもうちも一人しかいないよ?」0.5コンマの早さで、真正面から曇りなき眼でそう言いかえされた私は、しばし絶句したのち机にひれ伏した。「こいつ、、、マジで、、、、」呻きながらも、心の中は感動に満ちていた。天才かこいつ。半ば冗談でしらばっくれたつもりだろうが、確かにそうなのである。ぐうの音も出ない。うちらも、ひとりしかいないのである。

謙遜が美徳だ、とか言う風潮は根強いし、自信満々な態度を取るとそれに見合えているだろうか、と心配になってしまう方だから、まっすぐにそう言える彼女を目の当たりにして、すごく素敵なことだと感じた。今度萎縮するような相手を前にしたときは、「でも私も、一人しかいませんけど?」と思ってみることにしよう。



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