銀座の本屋のオヤジ

中近東を放浪した後、銀座の老舗書店に拾われる。勤続25年で雑誌売場担当、ネットショップ…

銀座の本屋のオヤジ

中近東を放浪した後、銀座の老舗書店に拾われる。勤続25年で雑誌売場担当、ネットショップ担当、キリスト教書売場担当を経て同部署の店長就任。身の回りのことは何でも自分でやってしまいたい人。電気工事二種免許保持、行政書士有資格者。ヘブライ語話者で聖書にも多少詳しい。

最近の記事

イスラエルでM16自動小銃を撃った話(1)

「君たちは今から軍の指揮下に入った。よってこの基地から帰すわけには行かない。」 1998年2月。イスラエル某基地内での出来事。映画でもめったに聞かないこんなセリフだが、言い放った僕の目の前の士官は真顔だ。同行していたユダヤ人たちが一斉に悲鳴を上げ、両手を振り上げて大げさなジェスチャーで抗議をしはじめた。日本人の僕が、なぜこんな修羅場にいるのか。ここに至るまでの、些細な出来事の分岐点が頭を駆け巡る。 遡ること10ヶ月ほど前の1997年4月。聖書を原典で読みたいという情熱に溢

    • 私につながっていなさい

      私が小学四年生のとき、母が病に倒れた。父は早くに天に召され、母は女手ひとつで私たち兄妹4人を育てていた。「母子家庭だから」と後ろ指を指されたくない、そう思って無理を重ねていたのだろう。母の顔は日に日に土気色になっていく。やっと医者に診てもらった時には、一刻も早く胆のう摘出手術をしなければ命の危険さえあると言われた。身寄りの少なかった私たちはそれぞれ、親戚や篤信なクリスチャンの友人に別々に預けられることになった。 私は同じ教会に通う教会員のご家庭に預けられた。歳の近い子どもた

      • メロンパンパン

         食事は年功序列。それが家族の掟だった。 地方の片田舎で育った僕は、食卓を囲むのがあまり好きではなかった。兄妹が4人。父方の祖母と父、母と総勢7人で囲む食卓はまず祖母が食事に箸をつけることになっていた。それから父と母、兄、次にやっと次男の僕が箸をもてる。しかも大きな唐揚げは容赦なく先になくなっていく。今となっては信じられない風習だが、当時はそれが当然だと教えられていた。 しかも理不尽なことに、おやつについてはなんと序列が逆となる。末っ子の妹からお菓子を先に渡される。色とり

        • 押しの弱い営業のカズさん

          『お世話になっております~。S出版です』 カズさんはとても物腰の柔らかい若手の営業さんだった。 当時、新興大手出版社へと成長しつつあったS出版。その銀座地区営業担当に抜擢されたカズさんはエリートには違いないのだろうけど、見た目は地味感オーラ全開だった。 そしてとにかく押しが弱っちい。 いつも忙しくレジを打つ僕の横にしばらく控え、お客さんが途切れる瞬間を見計らっている。でもなかなかお客さんは途切れない。だって2000年代初頭は出版最盛期だったし、銀座通りに面した路面店の入り

        イスラエルでM16自動小銃を撃った話(1)

          書店とコロナ禍(2020年既出)

          初めまして。ご挨拶がてらにこの一文をご紹介。これは同人誌「文人墨客」第六号(2020年秋号)に掲載されたコロナ奮闘記の拙文です。発表と同時に然る直木賞作家がブログで取り上げてくださいました。銀座で働く書店人の生の声です。 (以下原文) はじめに 書店には今、烈風が吹き荒れている。  書店員のみならず、お客様として本屋に出入りしているあなたならこんなことは当然肌身に感じているかもしれない。かつて2万店を優に超えていた全国の書店の数は数年前には1万店を切り、売り場面積も売り

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