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シナリオ小話 01 すべてにシナリオあり

17歳でデザイナ・構成作家としてデビューして、フリーのプランナー兼プロデューサー、そして二流の脚本家としてちょうど20年の商業作家生活を無事に送らせて頂きました「おおやぎ」が、2007年頃からMixi等で公開していた講座連載を再構成して掲載いたします。今も脚本・シナリオを学ばれるあらゆる層のかたがご笑覧くださるなら望外の幸せです。

日記でもなく、連載コンテンツと呼べるほど立派ではないけれど、シナリオに関する覚え書きとして、また自分自身の考えをまとめるためにぼつぼつ連続掲載していこうと思います。(注 初出 2007年頃)
出来るだけ、「シナリオ論」よりは、日常生活にも役立つ形でやっていきたいと思います。 

さて、初回は「どんなものにもシナリオがある」です。

ここで言う「シナリオ」は「作意に基づく筋立て」だと思って下さい。
実際に、ニュース原稿、ドキュメンタリー番組、パンフレットやポスター、そして小説やゲームの物語と、シナリオの考え方はあらゆるシーンで生活の周囲に溶け込んで存在しています。
『あるある問題』(注 打ち切りになったTV番組)以降、しばしば「結論ありきで作成されている」ことが悪いことのように言われることがありますが、シナリオとは「作意に基づく筋立て」を考える作業であることを考えると、前提となる“作意”がないと始まりません。

つまり、シナリオにおける述懐は常に価値明示的である、と思って下さい。

――かつて大学で学んだ際、当時の学部長はこうおっしゃいました。

「政策学とは価値明示的な科学でなければならない」
(関西学院大学 総合政策学部 天野教授)

そして、世の中のあらゆるシナリオは価値明示的です。
有名な小話を一つ。 

2人の男がお銚子1本つけて、さしつさされつ酒をやっている。
2人とも無類の酒好き、実に美味そうに飲んでいるわけである。
少しして、片方の男は言う。
「なんだ、もう半分しかねえのか」
同じ時、もう片方の男も言う。
「なんだ、まだ半分あるじゃないか」

シナリオの基本はここに凝縮されていると思います。
述懐の中に、その者の価値が明示される言葉の仕組みというものです。

『旅客列車の脱線事故、乗客は1250名、死亡者1名、負傷者51名』 

これがニュース番組となった時、表現されるもののなかに価値、つまり価値観・感じ方が現れるわけです。

・「この事故は死傷者52名の惨事となりました」
・「1250人もの乗客中、死亡者は1名、負傷者は51名でした」
・「多くの乗客が無事であった中、不幸にして1名の死者を出しました」 

あなたがこの列車会社や事故を否定的に捉えていたらどのように表現するでしょう?
あなたがこの事故に際し実に優れた手腕を発揮したレスキュー隊員の一員だったら?
――シナリオの本質はこの価値観の明示、訴える感情の開示にあるのです。

初出 不明 2007年頃

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