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自然と交渉して完成させるマシャカリ族の手編みバッグ

植物に音楽を聞かせたり、話しかけたりすると、育成に効果があるとよく言われますが、人が植物とつながろう、働きかけようとする行為は、私たちの身近でも行われていることです。そんな関係をもっともっと膨らませたのが、ブラジルの先住民、マシャカリ族の女性たちとエンバウーバの木。彼女たちは木に歌いかけ、繊維を採るために交渉し、糸を作ることを約束します。願いを受け入れたエンバウーバは、糸が作られ、その手仕事の完成を見守ります。もし作り手になんらかの落ち度があるとみなしたり、気にくわなかったりした場合は、完成を阻みます。彼女たちが欲しがったモノを与えません。

こんな自然とのやり取りからできたのがマシャカリ族の手編みバッグです。命ある自然から分けてもらったものを無駄にせず、感謝の意と愛情を込めてそれを利用する。そうすることで、自分たちの生活もまた守られているという認識。この過程には、自然から人に渡り、また自然に戻るという循環が観察できます。ゼロからモノを作るという行為とは無縁な生活を送っている私たちの日常は、このような意識を育む環境から遠く離れてしまっています。

さて、糸の材料となるエンバウーバとは、トゥピー語で「空洞の木」という意味。名前の通り、幹は空洞、高さは大きいもので15mにも達します。大西洋岸森林に生息し、痩せた土地でも生育するたくましい木です。また、幹が空洞なところからアリを共存させ、その代償として、アリに外敵からの攻撃を守ってもらうというユニークな生態を持っています。

マシャカリ族はエンバウーバの糸を「母なる糸」「魔法の糸」と呼んでおり、彼らの世界観の中ではかなり重要な存在でもあります。彼らの伝承の一つに、ある女が撚ったエンバウーバの糸をたどって、天に閉じ込められた男たちがこの世に戻って来たと伝えられており、また別のお話しでは、その同じ糸を、今度はまた別の女によって切られ、男たちは村に戻ってくることができなかったと言われています。他にも、エンバウーバの糸が、マシャカリ族の村を襲った悪霊を捕まえるために使用された話や、母親が撚った糸を食べてスクリ(水蛇)に変身し、彼女をきちんと養わなかった夫に復讐をした話など、マシャカリ族にはエンバウーバの糸に纏わる伝承が多くあります。

この最後の言い伝えからも分かるように、マシャカリ族の世界観では、エンバウーバの糸とスクリ(水蛇)との関連性が確認できます。実際に、糸を撚るときから、その動きがスクリのようだと、マシャカリ族の女性たちはその類似性を認めています。そのため、この糸で編まれたものには、触ると、水中の波動が感じられ、デザイン柄は魚の鱗やワニの足をイメージしているそうです。

魚の鱗をイメージした編目

マシャカリ族の女性は、自然(エンバウーバ)と交渉して、その一部を分け与えてもらい、そこから生まれた手仕事が今度はまた自然(スクリ)に戻ります。人の手を通じて変身したスクリ(エンバウーバの糸)は、彼らの守護神でもあるという世界観を持っています。自然と人のパワーがミックスされて作られたマシャカリ族の手仕事には良質のエネルギーが一杯詰まっているのです。

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