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日本中をまたにかけてゆかり

 私の通っていた小学校に、とある芸能人も通っていたようなんです。調べてみたら、これが結構な有名人でビックリしました。公式プロフィールにも確かに書いてある。あんな片田舎の、何の特徴もない小学校から有名人が出ているなんて。

 しかし、よくよく見たら、途中で東京に転校してるんです。入学はしたけど卒業はしていない。何なら、出身地は東京都になっています。当然でしょう。人生の半分以上を東京で過ごしているんですから。ただ、その方にとってゆかりの地であることは確かでしょうし、地元の人としても「あの方がこの町で暮らしていた」との事実は嬉しいに違いありません。

 芸能人でもそうなのですから、歴史的な偉人となるともっとすごいでしょう。出生地や晩年に暮らした場所はもちろん、日本各地の自治体が「あの偉人が我々の町でこんなことをしていた」と様々なゆかりを見出しては、ゆかりの地を名乗り出る。そんなゆかり競争が長きにわたっておこなわれてきたに違いありません。

 例えば、偉人オブ偉人の徳川家康です。このレベルになりますと、歩いたところが次々とゆかり化する勢いでしょう。彼が主に活躍したのは東京から大阪までの間ですけれども、言い方を変えればその一帯はゆかりまみれです。家康ゆかりの地を巡るツアーだって余裕で立てられるようです。

 何なら1回や2回のツアーでは巡り切れないくらいゆかりだらけのようで、JR東海のサイトでは「まだある、ゆかりの地」なんて言っちゃってます。

 一般の方が観光目的で行くような場所でもこの数ですから、細かいところまで調べると本当に膨大な量のゆかりがあると思うんです。何しろ家康は合戦に負けてお漏らしした場所さえ、ゆかりの地としてありがたがられるんです。一挙手一投足がゆかりになるレベルでしょう。逆に何がゆかりにならないのか気になるくらいです。

 家康は確かに日本史のビッグネームですが、行動範囲が意外と限られています。ゆかりの地は限定的で、そこまで広範囲ではない。もっと行動範囲が広い偉人はいないかとぼんやり考えたところ、ひとり思い浮かびました。松尾芭蕉です。

 芭蕉ならいろんなところを旅していましたし、句を読めばその場所はたちまちゆかりの地です。読んだ場所で句碑が建てば完全にゆかりです。家康のように城だの合戦だのと言った派手さはありませんが、代わりに小回りは利きそうです。しかも、行動範囲は芭蕉の方が広い。ゆかりの数や範囲ならば期待できそうです。

 調べたら、詳しいサイトが簡単に出てきました。

 どうも「芭蕉塚」という形のゆかりが全国に存在しているようなんです。個人で調査されたようなのですが、芭蕉塚はほぼ全国に存在し、その数は2千以上にのぼるようです。まさに日本中をまたにかけてゆかりと言えましょう。

 これだけゆかりだらけだと、すごいなあと思う反面、自らの人生がいろんなところでゆかりにされるしんどさもありそうですね。ゆかりから著名人の苦悩を垣間見た気がします。

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