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無意味な警報装置

 前に住んでいたアパートなんですけど、駐輪場の広さに対して停まってる自転車やバイクが多かったんです。ですから、狭いスペースにススッと自転車を入れ込んでいたんですが、まあ狭いんでよく隣と当たるんです。当たるくらいなら別にいいんですが、たまに倒すこともある。

 倒しても起こせばいい。当たり前の話です。だから、いつもそんな感じで対処していました。

 ある夜も自転車を駐輪場に停めようとすると、私のお尻が当たったせいで、隣の自転車がバコーンと派手な音を立て更に隣のバイクにぶつかりながら倒れました。その時です。ヒュインヒュインヒュインヒュインという、けたたましい音が駐輪場に鳴り響いたんです。

 盗難防止用の警報機が作動したのだと察した私はひとり慌てふためきました。とりあえず、警報を聞きつけた持ち主がやってきた時のための言い訳だけはいくつも思い浮かべつつも、急いで警報機を探しました。ワンチャン音を止めることができるかもしれないとの判断です。音がバイクから出ているところまではすぐに突き止めましたが、焦っているからか、止める方法はおろか、どれが警報機なのかも分からない。

 不思議なもんで、警報機が鳴り響く状況ですら人は慣れてしまいます。駆けつける人はいないし、警報機は見つからないし、寒いし暗いし、もう倒れた自転車を起こして帰ってしまおうと思いました。部屋に戻ってからも窓を開ければ警報音が聞こえてきます。しかし、そのうち音は途絶えました。持ち主が止めたのだろうと安心し、警報機のことはすぐに忘れてしまいました。

 それからしばらくした日の出来事です。その日は休みだったので、私はずっと部屋でくつろいでいました。洗濯物を取り込もうとベランダに出ると、駐輪場のほうから急にヒュインヒュインヒュインヒュインという例の音が聞こえてきました。また誰かが鳴らしたのだと思い、洗濯物を取り終えると部屋に戻りました。

 バイクの警報機は割とちょっとしたことで発動する仕組みになっているのか、それからも定期的に警報音が聞こえてきました。なんなら、駐輪場に戻ってきた時、既にヒュインヒュインヒュインヒュインとなっていた時もあります。持ち主はもちろん、アパートの住民も、この警報音は気にしなくてもいいという、共通の認識を持っていたのでしょう。

 「意味あんのか、その警報装置」と、当時は思ったものですけれども、きっと出かけた先で効果を発揮していたのでしょう。あの頃からもう少しだけ大人になった私はそう思い込むことにしました。

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