見出し画像

M-1グランプリ2023予選動画感想 3回戦11月6日その3

 M-1予選の時期になると、備忘録的な感じで感想を書き、書いたら書いたで勿体なくなってネットに載せるという癖が毎年蘇ります。そして、今年も蘇らせてしまいました。よろしくお願いいたします。

 今回はM-1グランプリ2023年の11月6日に開催された予選3回戦動画に登場した芸人の感想となります。なかなかのボリュームとなっておりますが、よろしければどうぞご覧ください。


1.ミキ/戦慄のピーカブー/イクラボブチャンチャン

1-1.ミキ

 「さん」のつけ方を注意するネタです。
 正しい「さん」付けを模索するテーマですと、どこに「さん」を持ってくるかという、限られた方向にしか発展できなくなり、この組もまたその限られた方向に発展させています。しかし、卓越した見せ方により余裕でどうにかしてしまっています。例えば、野菜にさん付けするほうに注目させることで、本命の店員呼び捨てをスルーさせるところでございますけれども、別に店員をさん付けにしなくてもそこまでアウトではないはずなんです。恐らくは、その極度に表現を気にする態度を示すことで、終盤の女性を女と呼ぶところで強めにツッコんでもより笑えるようにするための布石となっているのだと考えられます。ただ、店員をさん付けするくだりでも笑えるように加工しており、単なる布石で終わらせていない。短い時間の間にも、このような仕掛けが随所に張り巡らせてあります。

1-2.戦慄のピーカブー

 心霊スポットである廃村に行ってみるネタです。
 テーマこそ肝試しですけれども、基本システムは話を進行させながら合間にアクションとあるあるネタを組み合わせたオチを挟む形となっています。オチの後にボソボソと補足をしており、そちらのほうが笑いどころとして重要になっているパターンもございます。

1-3.イクラボブチャンチャン

 センター試験、つまり今でいう共通テストをやってみるネタです。
 ストーリーを進めながらボケてツッコむ、非常にオーソドックスな形となっています。試験のあるあるをかなり交えるところもまた同様です。

2.カナメストーン/いぬ/オッパショ石

2-1.カナメストーン

 泣いてストレスを発散する、いわゆる「涙活」のために感動の場面を再現するネタです。
 感動の場面は3つ用意しているものの3つ目に感動できるか微妙な場面を持ってきたり、身体の動きで笑わせたり、脈絡もなくあるあるネタを持ってきたりと、手を変え品を変え笑わせようと試みております。ツッコミもゆっくりなものから素早いもの、手を出すものと場合によって使い分けており、単調さを消し去ったネタとなっています。

2-2.いぬ

 役者のオーディションをするネタです。
 内容はおならを指から出せる一発芸を何度もやるだけなんですけれども、ただただ馬鹿馬鹿しいことを全力でやることで面白さを引き出すという、ある種の王道を爆走している形となっています。途中で他人の身体にもおならを通そうと試みることで話に変化をつけるなど、奇妙なことをやっているようで基本にも則っており、ウケるようバランス調整がなされています。

2-3.オッパショ石

 アイドルになってみるネタです。
 漫才の基本形としてボケとツッコミがあるわけですが、そこに手を入れる組はこれまでもチラホラいらっしゃいました。両方をボケまたはツッコミにしたり、ボケでもツッコミでもないふたりにしたり、同じネタ中にボケとツッコミを入れ替えたりと、様々な試みがなされてきました。この組の場合は、正しいツッコミを間違ったツッコミを織り交ぜ、更にそれを受けてボケが正しいツッコミをしたり間違ったツッコミをしたりして、結果的に状況に応じてボケとツッコミがランダムに入れ替わっているような形となっています。複雑なシステムを用いているにも関わらず会話の流れはかなり自然で、王道から外れている感じを出さずに最後までいっています。このようなシステムを構築するネタは極めて珍しいと考えられます。

3.アケガラス/未来の油田/乙女ブレンド

3-1.アケガラス

 意味が分かると怖い話をするネタです。
 前半は怖い話を相方に妨害されまくり、まともに進められない形となっています。この形は割とオーソドックスでございますけれども、後半では怖い話のオチで思うような反応を得られず、妨害しまくってきたはずの相方に助けを求める形に変化しています。オーソドックスパートをフリにしたこの方針転換がネタの独自性を一気に高め、キッチリとしたウケに繋がっています。

3-2.未来の油田

 母の還暦お祝いにとプレゼントを買いに行くネタです。
 「ワードを思い出すためにヒントとなるようなことを言うと、相方がそれを受けて正解を出す」を基本スタイルにして、話が進むにつれてスタイルを変化させていっています。ただ、その変化パターンが非常に多彩で、ひねったオチにしたかと思えば、敢えて当たり前のものをそのまま出したり、一度不正解を出してから改めて思い出そうとしたりと、ふたつとして同じパターンがないかと思わせるレベルです。独自システムの活用に全振りしたかのようです。

3-3.乙女ブレンド

 四文字熟語を言ったら意味を答えるネタです。
 「言われた四字熟語を解説する」というシステムを冒頭で認識させ、次第に四字熟語を合体させて解説を追い詰めてゆく形となっています。追い詰める方向は確定しており、ひたすら合体数を増やして解説を長くさせる方式を用いています。

4.共犯者/入間国際宣言/ジグザグジギー

4-1.共犯者

 娘さんを僕にくださいといいに行くネタです。
 オーソドックスな場面をベースにして、いかつい外見を利用して犯罪方面のボケばかりしてゆく形となっています。いかつい外見の人が犯罪方面のボケをする形もまたオーソドックスな手法であり、それをふたつ組み合わせて独自性をあげています。

4-2.入間国際宣言

 ふたりでアシカショーをやってみるネタです。
 片方がMC、もう片方がアシカを担当し、リアルなアシカのアクションを続けるもちょこちょこ人間の部分が出てしまう形となっています。ツッコミがツッコむ場面はほとんどなく、基本的には乗っかるか黙殺するかのどちらかとなっており、奇妙なシーンを見て笑ってもらう方式を採用しています。

4-3.ジグザグジギー

 言ってることが電話の相手に伝わらないネタです。
 とにかく同じ言葉を繰り返し叫ぶことに時間の大半を割き、ついでにタブーをチャレンジする形となっています。加えて美容室という舞台に因んだワードを活用しています。

5.ワラバランス/照山おうちごはん/ムームー大陸

5-1.ワラバランス

 肩がぶつかって絡まれた時の対処法を練習するネタです。
 特定の言葉を多用し、その意味や言葉自体を変えて行くことで場面に変化をもたらす形となっています。当然ながらこのネタの場合は「来いよ」がそれに該当します。特定の言葉を何度も変化させることで単調さを解消しようと試みています。

5-2.照山おうちごはん

 腹話術をやってみるネタです。
 ボケふたりが腹話術師と人形を担当し、わざとらしい腹話術を披露したあと、稚拙な芸を誤魔化すために人形担当が本来のしゃべりを変えてしまう。この点がネタの肝となっておりまして、以降はそれを中心に話が展開されていきます。

5-3.ムームー大陸

 合コンで盛り上げるためにマジックをやってみるネタです。
 ボケが極めて分かりづらいことを言って、ツッコミがその解説を交えながらツッコむスタイルで一貫しています。必然的にツッコミの口数が増えるわけですが、ボケのキャラクターがいかにも口数少なそうなため、違和感なく楽しめるようになっています。

6.人間横丁/アインシュタイン/ジョウダンアオナナテンパイ

6-1.人間横丁

 噂を一人歩きさせるネタです。
 テーマが独特なのはもちろんですけれども、その独特なシステムを事例ひとつですぐ理解できるように作られているのは特筆すべき点です。説明的なセリフをほとんど用いず、状況を見せるだけでやってのけており、かなり計算高く作られています。キャラクターに合った言動の中に敢えてそぐわないものを混ぜ、その落差で笑わせるも多用はしないなど、バランス調整にも優れています。

6-2.アインシュタイン

 河童と遭遇した時の対処法を実践してみるネタです。
 「河童に間違われたと知るや河童で通す」がメインテーマとなっておりますが、河童で通すまでが極端にスムーズです。ボケの独特な外見に加えて知名度の高さも計算に入れ、最低限の描写だけで達成しているものと推測されます。ツッコミの言いよどみをとても効果的に活用しており、観客の興味をネタに引き付けることに成功しています。キャラクターと知名度の活用、端的なツッコミは終盤に至るまで、必要な場面で的確に使用されています。

6-3.ジョウダンアオナナテンパイ

 気になる子の口の中を見ようとするネタです。
 ふたりともゆったり話し、間も長めに取るスタイルで、ツッコミは原則としてボケを否定しません。そのため、微妙に変態的な発言にリアリティが備わると共に、その変態的な発言を観客が許容しやすい役割も果たしています。

7.家族チャーハン/夕げ/きっと君はくるさ

7-1.家族チャーハン

 美容院に行ってみるネタです。
 王道的なテーマに基づいたストーリーに沿ってボケとツッコミが展開されるオーソドックスな形となっております。飄々としたボケと強めのツッコミのコンビであり、自然な言葉遣いを維持しながらも特殊な言い回しがチラホラ見られます。

7-2.夕げ

 「蛇にピアス」の吉高由里子さんに勝っていると主張するネタです。
 理屈で笑わせる色合いが強く、必然的に説明的なセリフが多めになっています。敢えて脈絡のないものを入れてるなどして理屈を破綻させることにより笑いを狙うことが多く、前半はピアスパート、後半はタトゥーパートにすることで、話の展開に変化をもたらしています。

7-3.きっと君はくるさ

 デート中、3人の男に絡まれるネタです。
 最初はちょっとした違和感だったのが、徐々に徐々に話がまともなルートから外れていく、ホラー映画のような展開のネタです。冒頭の「絡まれたい」からラストの木が生えるところまで、話としては無理がありますが、お笑いとしては何も無理なく進んでいるから不思議です。ボケの特殊性癖の見せ方ももちろん注目点ですが、肝心な時のツッコミが全く外さない点は特筆すべきところです。日常会話として自然な言葉を非常に独特な使い方で、なおかつツッコミとして大正解の活用をしているため、大きな笑いを生んでいます。

 今回の感想は以上になります。ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?