テレビを通してだけ見た親戚

　ここでは田村君としておきますけれども、私が田村君と初めて会った時から彼には可愛い彼女がいました。田村君に負けず劣らずいい人でございまして、できればちゃんと続いてほしいと思わせるカップルでした。

　まだ当時は互いの家族に挨拶をしていなかったんですけれども、互いの家族についての話はそれなりにしていました。家族構成、職業、年齢などなど、大まかなプロフィールからちょっとした笑えるエピソードまでちゃんと押さえていました。まあ、既に長く付き合っていましたから、当然と言えば当然です。

　そんなある日のことです。田村君とファミレスでご飯を食べていますと、何の話の流れか、彼はこんな話を切り出してきました。

「彼女の姉貴の旦那がテレビに出るって」

　田村君の彼女は二人姉妹の妹で、お姉さんは既に結婚していました。田村君は結婚前のお姉さんと会ったことはあるそうですが、結婚してからは一度もなく、お姉さんの夫とは会ったことがありませんでした。とは言え、このまま順調にいけば田村君は彼女のご家族と挨拶をすることになる。

「見といた方がいいよな」
「そもそも何の番組に出るの」

　田村君の言うところによると、お堅い討論番組の一般人として出てくるとのこと。討論番組とは言ってもそこは一般人ですから、ゲストの専門家とガンガンやり合うわけではなく、討論の合間に一般人の目線でちょろっと意見を言う程度なんだそうです。

　そんなところにスルッと入り込める人なんてどう考えても一般人じゃない気がするんですが、どういうことなんでしょう。田村君に詳しく話を聞くと、どうもお姉さんの夫はテレビディレクターと知り合いで、諸事情により一般人として出る人が出演キャンセルしてしまったためにお姉さんの夫が一肌脱いだんだそうです。

　ほのかにサクラの香りがしますけれども、私は「別に見る分には問題ないんじゃないの」と言いました。私の一押しがどれだけ影響したのかは分かりませんが、田村君は見てみようという気になりました。

　田村君が見るのは何の不思議もないんですけれども、なぜだか私も気になってその番組を見てしまいました。まあ、討論番組自体は普通というか、それよりも田村君の彼女のお姉さんの夫がどんな人なのか気になりすぎて、番組の内容は全く頭に入りませんでした。

　結論から言うと、お姉さんの夫は本当に普通の人でした。司会のアナウンサーに意見を尋ねられたのは一度きりでしたが、受け答えも意見の内容も本当に普通で、言い換えれば社会人としてちゃんとした格好なり振舞いなりをしていました。

　もちろん、次の日に田村君と会った私は出合い頭に言いました。

「普通だったね、お義兄さん」
「どうせ『全身タトゥーで顔中ピアスのモヒカン野郎だったらよかったのに』とか思ったんだろ」

　そんなことは思っていなかったんですが、どうも私は半笑いで尋ねていたみたいです。

　さて、そんな田村君はその後、めでたく彼女と結婚いたしました。それはよかったんですが、私はとあることが気になって、結婚後に始めて田村君と会った際、やっぱり出合い頭に尋ねてしまいました。

「実際に会ったお義兄さんはどうよ」

　何の気なしに言ったつもりだったんですが、田村君は微妙な表情です。

「実は、彼女のお姉さん、離婚してたみたいでさ」

　田村君は彼女のご家族へ挨拶する直前に聞いたそうで、挨拶の時はもちろん、結婚式にも姿を見せなかったそうです。彼女のお姉さんは離婚してかなりスッキリしていたようで、田村君夫婦とちょこちょこ会っているようです。

　結局、田村君はお義兄さんになりそうだった男性を、お堅い討論番組でしか見ていないそうです。なんか一般人とタレントとの関係性みたいですね。その変な縁が何か気になりすぎて、田村君に許可をもらってまで書いてしまいました。「お前は相変わらずだな」と笑われました。どうも昔からこんなことばかり書いていたようです。今後ともよろしくお願いいたします。