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硫酸型ダメージジーンズ

 硫酸って常日頃からシュワシュワ言ってるイメージがあったんですが、実際に見てみると少しだけとろみがある液体でした。あと、さすがに一瞬で溶けてしまうわけではなく、皮膚についたらすぐに大量の水で洗えば何とかなる。もちろん、危ないです。扱いも慎重にしなければいけない。ただ、実験で使い慣れてくると扱いが雑になったりする。そうすると、思わぬ一撃を食らいます。主に服に。

 濃硫酸ともなりますと、目に見えないくらい小さな飛沫が服についただけで小指が通る程度の穴が開きます。じゃあ、水で薄めたら大丈夫でしょと安心してはいけません。硫酸は水に比べて蒸発しづらい。だから、薄い硫酸が服につくとまず水だけ先に蒸発するんです。すると、必然的に硫酸の濃度が上がっていき、服に穴が開くレベルにまでなったら祝・開通です。個人的にはこっちのほうが大変でした。気づけばポコポコ穴が開くんです。それを防ぐためにみんな実験中は白衣を着るんですが、私のようなだらしない学生は白衣を着るのも面倒くさがり、一張羅に穴を開けてから後悔するわけです。

 被害は上だけじゃないです。硫酸の飛沫が飛べば、下だって穴が開く。私のジーンズは硫酸によって自動的にダメージジーンズへと進化しました。ただ、お洒落な感じのダメージではありません。虫が適当に食ったような、ただただ恥ずかしい穴がダメージとして残るだけです。しかも、私の場合、被弾したうちの一発は股間付近に食らってまして、穴から普通に下着の模様が見えるようになってしまいました。

 でもまあ、ちょっとだし、思ったよりみんな他人の格好に興味ないし、大丈夫だろう。そうやって私はダメージジーンズをはき続けました。濃硫酸でジーンズにダメージを作ったのは大学生の頃でしたが、ジーンズをはいている間に私は大学を卒業し、社会人として仕事をすることになりました。初めての職場はTシャツにジーンズでも何も言われないところだったので、当然ながら例のオリジナルダメージジーンズをはいていました。

 働き始めて数か月、さすがに気づく人が現れました。私がダメージじゃないジーンズをはいて職場に行くと、隣の席の先輩がこう尋ねてきました。「今日はポロリジーンズじゃないんだ」。

 先輩は私のオリジナルダメージジーンズを独特な名前で呼んでいました。由来を聞いたら、何とは言いませんが玉をポロリしそうな穴が開いていたからだそうです。確かに、位置的にはポロリしそうな感じになっています。なかなかうまい名前だと私、素直に感心しました。

 今から考えればそんなジーンズをはいていた間、よく職務質問とか署に連行とかされなかったもんだと思います。

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