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ユニバーサル白鯨

 中学校でホームステイの募集があると、当時中学生だった私は母に「絶対に応募しろ」と命じられました。「こんな安く海外に行ける機会なんてまずないから」というのが理由でした。普通は国際経験がどうとか、英語学習がこうとか、もっと教育方面の理由を嘘でも言うのが親のはずなんですが、母はそういう人間ではありませんでした。

 ただホームステイするだけでなくて、その前に軽く観光ができるのも母の目には魅力に映ったようです。ホームステイ先はアメリカ西海岸、そこでの観光となれば例えばチャイニーズシアター、そしてユニバーサルスタジオです。ええ、もちろん両方行きました。特にユニバーサルスタジオはロクに英語を喋れない聞き取れない私でも、そのすごさはよく分かりまして、大いに楽しめました。

 さて、そんなホームステイも無事に終わり、私は英語が全く得意にならぬまま日本で暮らしておりますと、いよいよ我が国でもユニバーサルスタジオ的なやつができるという話になりました。ご存じUSJです。あんな楽しいものが日本にできる。当然ながらスタッフの多くは日本人になるでしょうし、そこかしこで日本語が飛び交うテーマパークとなるでしょう。英語が理解できない状態でもあれだけ楽しかったんです。これは楽しい施設になると思った記憶はあるのですが、結局、今まで一度もUSJに行ったことがありません。

 それを関西の友人に話したところ、「お前それおかしいで」と嬉しそうに言ってきました。半笑いの顔はもう黙ってても「それおもろいからそのままにしとき」と言ってるようにしか思いません。そうかそれならこの状態を維持しようと思いまして、どんなに友人知人がUFJへ誘っても鋼の意思で断ろうと決心しましたが、そもそも誘ってくれる人が現れず現在に至ります。

 ここで話は急に文学めいた内容になりますけれども、「白鯨」という小説がありますね。ハーマン・メルヴィルの代表作です。私は読んだことがありませんけれども、タイトルの「白鯨」をもじって、ゲロを吐くクジラの絵をギャグマンガで5回くらい見た記憶があります。有名ゆえにパロディにされる回数も多いんでしょう。

 私、「白鯨」のような名作と呼ばれる文学作品はあまり読んだことがありませんが、小説自体はたまに読みまして、例えば先日はパトリシア・ハイスミスという方の作品をいくつか読む機会に恵まれました。

 そんなハイスミスの短編集に「世界の終わりの物語」があります。タイトルからも何となく察せられるとは思いますが、どの話も救いがなくて、大体は惨事になって終わります。

 その作品集の中に「白鯨2」という短編があるんです。現代もそのまんま「Moby-Dick II」。文字通りクジラが大暴れする話です。

 本家を読んだことがなくてパロディっぽいほうだけ読んでいる。ユニバーサルスタジオとは逆パターンです。いや、USJは別にユニバーサルスタジオのパロディじゃないですけど、なんか似たようなものを感じてしまったんです。

 このエピソードもnoteに書いたらそれを読んだ誰かが「お前それおかしいで」と言ってきて、私は誰に本家「白鯨」を読むように誘惑されても今の状況を維持しようと決心するのでしょうか。ユニバーサルスタジオよりも遥かに起こりえない未来ですが、世の中は何があるか分かりませんので、油断せず生きていきたいと思います。

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