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M-1グランプリ2023敗者復活戦 全ネタ感想

 2023年12月24日にM-1グランプリ敗者復活戦が開催されまして、性懲りもなく感想を書き、書いたらネットに上げたくなり、みたいな症状が出ましたので、ひとまず載せてみます。ネタ披露順に、敬称略であれこれ書いておりますので、お暇な方は何となくご覧になってくだされば幸いです。

 では早速参ります。


1.ブロック

1-1.華山

 浴衣デートをやってみるネタです。
 コント内でボケはひたすら不満を言い続けており、「お祭りあるある」から強引に恋愛へ、話題を強引に繋げていく形を複数回繰り返していく構成となっています。その繰り返し感がやや強い構成の中で、ボケが下手な例えをしたあと、ちょっと間を置いてから自ら否定するところが異質であり、それゆえかよくウケているように見受けられます。

1-2.ぎょうぶ

 鼻糞を食べない理由がなんかおかしいネタです。
 食べない理由が「汚いから」以外のものが大半のため、何かの拍子に食べない理由を解消されたら食べてしまいそうに見えてくる、独特な立ち位置を笑ってもらう形となっています。人間いろいろ輩出しているのにその中でなぜ鼻糞、と最初は思うんですが、うんこやおしっこだと汚いイメージが強すぎて何かの拍子に食べそうな感じがなくなりますし、目糞耳糞だとそれはそれで食べてしまいそう感が薄くなる。このネタでは鼻糞がベストな選択だと思われます。

1-3.ロングコートダデイ

 それぞれが互いに逆のことをしてコンビの幅を広げようとするネタです。
 前半は相方の特徴から訳の分からない「逆」をひたすら出し続け、後半はその「逆」を実際にやってみる、二段構えとなっています。前半の「逆」だけでもかなりウケが取れるようになっており、それだけでもひとつのネタとして使えそうなクオリティでございますが、後半ではその「逆」を自然な流れで用いたりかなり強引に使ったりと緩急織り交ぜつつ、複線を回収するかのように展開しており、非常に考えられています。

1-4.ニッポンの社長

 相方の発言に注意するも、注意してる方がヤバい偏見を垂れ流すネタです。
 いわゆる「コンプライアンス」をネタにしておりまして、男女の偏見をいじる形となっています。前半ではボケが相方の発言を注意しつつ、自分がもっとヤバい形に終始しておりますけれども、その偏見は「あるある」とあまりにも見当違いなものを混ぜることで、発言に一定のリアリティをつけつつもちゃんと笑える形になっております。後半は、ボケが観客に向かって男性を下げる主張をし、その合間にツッコミがガヤのようにちょこちょこ言っていく形に変化しています。前半と後半でかなりガラッと変えているわけですが、その変化が自然にできています。

1-5.20世紀

 居酒屋の経営をするも、初日にやってきたお客さんが怪人メインだったネタです。
 普通に居酒屋のコントに入るかと思えば怪人が現れ、悪い怪人かと思えば店ではいい客になり、それで終わるかと思えば口コミで新たな怪人が来て、ヒーローが現れたかと思えば店主を悪者扱いし、散々戦いが繰り広げられた後で相方がようやく客として来て、と状況を二転三転四転五転させることで客の興味を引き続けてゆく形となっています。終始、叫びが飛び交う熱量の高いネタではございますが、構成は緻密に組み立てられておりまして、意外性を途切れないよう工夫されています。

1-6.ママタルト

 ふたりでキャンプに行ってみるネタです。
 敢えて単独で分かりにくいボケを言い、相方がそれを補完するような言葉でツッコむ形を多用しておりますけれども、使い方が非常に多彩です。ボケとツッコミの切り口や言い出すタイミングが毎回異なっており、時にはちゃんと間を取ったり物真似を入れたりしています。ツッコミが注目を引き付けている間にボケが次のくだりに取り掛かっていたりと、無駄な部分をなるべくそぎ落とすための心配りもちゃんとされています。

1-7.ヘンダーソン

 ドッキリ番組をやってみるネタです。
 「コントに入るかと思ったら入らない」というシステムを繰り返すわけなんですが、非常に多彩な活用法を使い分けているため、繰り返し感が全くございません。加えて、ボケのアホなキャラクターが暴れ回るという、ふたつのシステムが交錯している構成となっています。ボケのキャラクターは冒頭から印象付けがおこなわれており、序盤には無茶苦茶な言動に必然性が備わっているまでになっています。ふたつのシステムが動いているため、コントに入らない一辺倒ではなく、ボケのキャラクターだけに頼るわけでもない。むしろ観客が飽きる前からふたつのシステムを切り替えているようにも見えます。

2.Bブロック

2-1.豪快キャプテン

 相方に冬眠を勧めるも、相方はそれを拒否し続けるネタです。
 ツッコミが怒りのボルテージを上げながら、相方に向かってほぼ一方的にまくしたてるスタイルとなっています。キレながらも的を射た発言をしたかと思えばおかしなことを言ったりして笑わせる形です。

2-2.鬼としみちゃむ

 手術を受けたくない子供にプロ野球選手がやってくるコントをやりたがるも、相方に断られるネタです。
 起点はベタな設定ですが、「相方に断られて妥協案を更に否定される」を繰り返すたびに話の独自性が増してゆく形になっています。それに加えて、ボケがツッコミにわざわざ名前を呼んで語り掛け、メタ視点で否定するという形も用いており、大きな笑いどころのひとつとして機能しております。

2-3.スタミナパン

 立ち上げたYouTubeチャンネルの紹介するネタです。
 もちろん肝は「本当にうんちしてます」の部分でございまして、ボケの見た目や動き、言い方のポップさで生々しさを消しており、ちゃんと笑えるように仕上がっています。略語を使うなどのくだりはありつつも、特に言及していないのにいつの間にかツッコミからも流行っている扱いされているわけですが、この際に起きる笑いは「そんなの流行るわけないだろ」という要素もあるとは思いますが、それよりも納得による笑いが強いものと考えられます。

2-4.トム・ブラウン

 スナックで女性の肩を抱きながら歌っている男性に優しく注意をしてみるネタです。
 同じくだりを繰り返しながら徐々に発展させてゆく構成となっており、観客に繰り返し見せてゆくことを大前提にしているとも言えます。ただし、繰り返すものが特殊でございまして、どう考えても惨劇が起こっているわけなんですが、ふたりのキャラクターと言動で笑えるような形になっています。前よりも要素を追加して繰り返すという、発展の形としては分かりやすいものではございますけれども、くだりの後ろにばかり付け加えず、前にも付け加えることで発展過程に変化をもたらしてもいます。

2-5.エバース

 交通費を浮かすために身体をケンタウロスにするネタです。
 「相方がケンタウロスになったら」という、特殊な仮定で起こる出来事をしゃべっていく形となっています。後半になると、「ケンタウロスの前足は人間」「弓矢を持っている」などの新事実を付け加えて、それによって起きる出来事を話してゆきます。ケンタウロスになった際に起きる出来事の中でも笑える箇所をうまく切り抜いて見せている印象です。

2-6.ナイチンゲールダンス

 女の子に怒鳴り込まれたホストをやってみるネタです。
 ひとつのボケを起点にいくつか重ねていくものや、相手の言葉尻を起点にするもの、高い声を駆使した歌ネタや物真似、更にはそれらを組み合わせたりと、同じネタの中で多種多様な形のボケを繰り出しており、端的で無駄のないツッコミがその笑いを倍増させております。

2-7.オズワルド

 相方の自分の大切さを思い知ってもらうため、違う人物「しまもと」になるネタです。
 まず「しまもと」の紹介をすることで「しまもと」の面倒臭さを知り、相方の大切さを再確認し、見事相方へ戻すことに成功するというストーリー展開となっております。どうしても状況説明が必要になってくるストーリーではございますが、なるべく説明的な会話を減らし、どうしても説明が必要な場合は、笑いどころを組み込むことで漫才として無駄のない形に仕上げています。奇抜なタイプの話ではあるのですが、ちゃんと「しまもと」が現れる必然性を序盤で用意したり、終盤で「しまもと」が戻りたがらないくだりをちゃんと作ってから相方を取り戻したりと、短い中にもストーリーを自然に展開するための仕掛けがあちらこちらに施されています。

3.Cブロック

3-1.ドーナツ・ピーナツ

 ホステスの面接をやってみるネタです。
 ボケが「せたらう」という謎の言葉や、どこにも存在ない慣用句を、敢えて意味を説明せずに多用する形となっています。意味不明な言葉を意味不明なまま使う形はこれまでにも存在していましたが、単に使うだけでなく、ピンネタに絡めるなど、意味不明な言葉における独自の活用法がチラホラ確認できます。

3-2.きしたかの

 先生に間違えて「お母さん」と呼んでしまう場面をやってみるネタです。
 間違えて「お母さん」と呼ばれるくだりをやりたいのに、ボケが全然やってくれず、ツッコミがずっと憤る形を維持しながら、校長が出たり母親が出たりして話が進んでいく構成となっています。ツッコミのキレ方がネタの中心を占めているため、冒頭からキレて見せて観客にキャラクターを理解してもらう気配りが見られます。

3-3.シシガシラ

 大勢参加するカラオケで何を歌うか考えるネタです。
 最初にちょっとボケが下ごしらえをするだけで、ツッコミの歌が全部髪の毛について言及しているように見えてしまうという、ハゲネタの新しい境地を切り拓くかのような形となっています。特筆すべきは言葉によるハゲいじりを最低限に抑え、表情やちょっとしたしぐさ、歌い方などでちゃんと笑えるように仕上がっています。

3-4.ダイタク

 ボーリングの強い父親のすごさを語るネタです。
 自慢話と言えばそうなんですが、父親のすごさの中にある奇妙さを丹念に拾い上げていじったり、特定の言い回しを多用するスタイルをうまく使ったり、父親のすごさを嫌がったりすることで、自慢話独特の嫌味を消して笑えるように加工されています。

3-5.ななまがり

 「あいのり」を体験するネタです。
 ただただいろんな変人が変な自己紹介をしていく形なんですけれども、その自己紹介が具体的で観客の想像しやすいものであると共に、笑いを減少させるような、例えば嫌悪感を感じさせるようなものをキチンと排除し、それでいてちゃんとどこかが狂ってるという、絶妙なバランス感覚によって笑えるように出来上がっています。実は序盤でちゃんとしゃべれるビート版の演技を混ぜたり、短くも適切なツッコミなど、細かいところまで気を遣っています。

3-6.バッテリィズ

 北海道に行きたいからと、詳しい人から話を聞くネタです。
 冒頭でボケがアホであることを暗に示し、それからは北海道についての話を間違った解釈で怒ったり戸惑ったりするスタイルに終始しています。その間違った解釈が完全におかしいわけではなく、ほんの少しながら言っていることが分かるというのがポイントで、その少しのものが笑いを誘うスパイスのような機能を果たしていると考えられます。

3-7.フースーヤ

 格好いい海賊をやってみるネタです。
 ネタの合間にふたりで一発ギャグを放り込む独特なスタイルをしております。オチの後に追加でギャグをする場合もあれば、コントの合間に挟み込むときもあり、更には終盤のように同じギャグを、細部を変えながら何度も繰り返すなど、様々な用法でウケを狙っています。

 敗者復活戦ともなりますと、どの組も笑いを取るための戦略が明確に決まっており、その戦略自体が精鋭化しています。何が自分たちの武器になるのか分かっていて、その使い方をマスターしているようなイメージですね。当然ながら、決勝に進出した組もまた同様です。

 今回の感想は以上となります。ではまた。

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