言葉遣いから見るTHE SECOND 2024 グランプリファイナルの感想
いいネタはいい文章でできていることが多い。そんな偏見を根拠に、大型賞レースを中心にネタの一部を書き起こし、調べたり考えたりして、勉強するフリをしています。
今回は2024年5月18日に開催されたTHE SECOND 2024 グランプリファイナルでございます。ご紹介する順番はベスト8、ベスト4、準優勝、優勝となっておりまして、ベスト8とベスト4はそれぞれネタ順に並べてあります。
漫才の一部を引用し、それを受けてあれこれ書いていっておりますが、読みやすさを重視するために細部を変更したり、カッコ書きで注釈を加えている部分がございます。また、敬称略となっている箇所もございますので、ご了承くださいませ。
それでは、早速参ります。
1.ハンジロウ ――混沌とした状況を正しく伝える工夫の数々
引用箇所はネタの終盤、元嫁カフェの店員が新たな来客に対応するところからです。
コント内でコンビのどちらも演じない3人目が登場し、その3人目がいる体でネタが進んでいっています。
この辺りになるとネタも終盤ということで、いくつかの要素が乗っかっています。例えば、元嫁カフェというオリジナルの店が舞台になっており、更に店員である元嫁役は決まったセリフこそちゃんと言えるもののアドリブに弱いという設定も追加されている。ここで更に別の客がやってきている。要は複雑な状況になっているんです。混沌としかけている。
そんな複雑な状況を伝えるため、様々な工夫が組み込まれています。まずは無駄のない、簡潔な、それでいて聞き取りやすい自然なセリフです。「元嫁役はひとりでまわしてる」「元元旦那」「なんか勝手に出てくる」などのように、複雑な状況を一言でバシッと表しているところが特に該当している箇所でございます。
何気に効いているのが、店員が「決まったセリフはちゃんと言える」という設定です。このネタのように序盤で言ったセリフを改めて口にするだけで状況が分かるようにするやり方は他の芸人のネタでもしばしば見られますが、店員の設定によって明確な根拠ができるわけです。序盤と全く同じセリフを言うのに違和感がなくなっている。
当然ながら、同じセリフを改めて言う行為は、初めて聞く言葉より以前にも聞いたことのある言葉のほうが頭に入って来やすいですから、複雑な状況を理解しやすくする効果を生んでいます。
また、引用部分は大きな見せ場とも言うべき場面ですが、早めに切り上げてオチに持っていっているように思えます。観客が混乱する前に切り上げておこうという気遣いかもしれません。
2.ラフ次元 ――流れに逆らわず、必要な言葉をちゃんと印象付ける
ラフ次元で引用するのは、序盤と終盤でございます。
ラフ次元のネタは話の流れに逆らわずボケとツッコミを繰り返し、更には様々な箇所で伏線を散りばめては回収を繰り返すスタイルとなっています。そして、伏線を張ってから回収するまでの距離が最も長いくだりが上記の「TとY」だと思われます。最長距離であり、最大の見せ場とも言えます。当然、この部分の成功が、全体の出来を左右すると言っても過言ではない。
ただし、その最長距離が懸念材料にもなってきます。ネタ時間は6分と大型賞レースの中でも長い。その序盤と終盤というわけで、どうしても間が5分程度空きます。その間もしゃべくりが続いていますから、観客が序盤のくだりを忘れてしまう危険性が出てきます。
そのため、中盤で対策をしてあるんです。以下、該当箇所の引用となります。
話の流れに逆らうことなく、YとTについて言及しているのがお分かりかと存じます。ここで一旦、YとTについて思い出してもらうと同時に印象付けることで、終盤のウケを大きくする効果を生み出していると考えられます。
3.ななまがり ――独特な言葉遣いこそしっかり伝える仕組みを構築する
ななまがりで引用するのは中盤の辺りです。
ななまがりの特徴として、ボケの森下さんの独特なキャラクターがございますけれども、そのキャラを際立たせているもののひとつに奇妙なネーミングセンスがございます。日常会話で使いがちな日本語を、あまり使わないやり方で用いるんです。
よく言えば独自性のある言葉遣いですけれども、悪く言えば聞き取りづらく、それでいて分かりづらくもあるわけです。ですから、観客を置いてけぼりにしないよう、気を遣っています。特に、セリフを敢えて途中で区切っている点ですね。上記引用部で森下さんのセリフが読点でちょこちょこ区切られているのは、そこで敢えて一拍置いていることを表しています。
一拍置くことで聞き取りやすくなり、観客に理解されやすい面はもちろんございます。それに加えて、区切られた言葉一つひとつに役割を明確に持たせている点も見逃せません。
例えば、引用部分3行目、靴下早歩きのところは、それぞれ「誰が」「どこから」「どうやって」「どうした」で区切られています。5行目の野生のカバのところは、まとまりの一つひとつにボケが乗っている形となっており、森下さんが新たな言葉を発するたび、観客の予想を裏切るプロフィールが飛び出す仕組みになっています。
相方の初瀬さんはもちろんツッコんでいるわけですけれども、靴下早歩きや田田アルファ美のように聞き取りづらく、かつ意味が理解しづらい単語はハッキリ繰り返すことで少しでも観客に理解してもらいやすくしています。
4.タイムマシーン3号 ――敢えて正確性を犠牲にしてアドリブ感を出す
タイムマシーン3号は、まず前半部分から引用します。
特徴的なのは、セリフが明確でどっしりとしたボケに対して、ツッコミはバタバタしている点です。具体的には、似たような言葉を繰り返している。ここでは実際に発している言葉に比べて、読みやすいように整理して文章に起こしていますが、それでもバタバタしてます。「何合炊く」なんて3回繰り返しています。いや、正確には2.7回くらいですか。
もう1箇所、気になったところを引用します。こちらは後半部分、いわゆる「悪魔のドラえもん」の部分からです。
先ほどの引用箇所ほどではありませんが、こちらもツッコミはバタバタしています。
バタバタしたツッコミの利点として考えられる点はいろいろあるでしょうが、個人的には「アドリブ感が増す」があると思います。「漫才では何百回やっていたネタでも初めて聞いたように話す必要がある」とは何名もの芸人の方がおっしゃっている言葉ですけれども、山本さんのようにバタバタした感じが出ていると、その「初めて聞いた」感じが出るわけです。ボケに対して本気で戸惑っている感じが出て、観客を笑いやすくさせる効果を生んでいるのではないかと考えられるんです。
また、お笑い芸人が長けている技術として、「正確な日本語ではないけれども、言いたいことは充分通じる」という言葉遣いがございます。中でも山本さんはそのような言葉遣いが非常にうまい。
例えば、小学館をドラえもんの「販売元」としているところです。ドラえもんの販売元は、例えばコミックだったらリアルまたはネットの書店ですし、グッズだったら当然それを売っているお店になるわけです。いわゆる未来の猫型ロボットとしてのドラえもんだったら、22世紀の販売店になる。
小学館を正確に表すならば「出版元」であり「版権元」です。でも、別に「販売元」でも山本さんの言わんとしていることは観客に充分伝わりますし、何だったら正確な表現よりも伝わりやすいまであります。
関さんのセリフは「ジャイアンだったもの」のように、細かな言い回しが重要になってくるボケがしばしば見られます。そのため、しっかりとセリフを言う関さんに対し、山本さんは敢えてバタバタと、それでいて分かりやすいツッコミをしている。その真逆なふたりの構図となっています。
5.金属バット ――フォローを用意した上でしっかりタブーに触れる
金属バットの引用は1本目の後半です。
事務所の先輩の不祥事をしっかりいじる、敢えてタブーに触れていく部分でございます。とは言え、ちゃんとテレビで出せるもので、しかも笑いやすいように作られているのがよく分かります。
まずは、自虐も少し入っているという点です。無関係の誰かをいじるのと比べて、自虐は明らかに聞いている人の緊張感に差があります。単なる悪口ととらえられる可能性が段違いに低くなるんです。不祥事を戒めるような言い方になっているのも大きい。
何よりうまいのは、そのものをズバリ言わずとも、何を言っているのか分かるようにしている点です。「俺らの会社が一番(通報)せなあかん」「渋谷の交差点」「先輩」「タピオカ」など、簡単な言葉で全て理解できるような言い回しになっている。
また、友保さんのフォローも見逃せないところです。拍手に対して友保さんがお礼を言うことで、観客が例の事故で笑う罪悪感を払拭させていますし、タピオカのところでもさりげなく「べっぴんさん」と言うことで、批判している感じを薄めています。
タブーへの触れ方が非常にうまいと言えます。
6.タモンズ ――作った感じを完全に消去した端的な説明
タモンズのネタから引用するのは1本目の前半部分です。
「ハイブランドの言い方」や「金太郎飴のシステム」など、日常会話として違和感のない言葉でありながら独特な言い回しで、しかも妥当な比喩表現をしていることが分かる部分でございますけれども、もちろん注目すべきは下から5行目、靴流通センターの説明でしょう。
靴流通センターの特徴を見事に言い表しています。外観の説明としてこれ以上ないと言っていい。何より、「日常生活として違和感のない言葉」としては完璧です。ハイブランドや金太郎飴がダメだとは全く思いませんが、やはりウケを取るために敢えて作った感じが微かに出ている。これを消すのはベテランのプロでも難しいのでしょうけれども、「靴!靴!靴!靴!」に関しては完全に消えているように思えてなりません。勢いで言っている感じになっているところもプラスに働いたことでしょう。
「靴!靴!靴!靴!」も含めて、物事を端的に説明するのが得意なコンビであることが見て取れるネタとなっています。
7.ザ・パンチ ――新しい自虐で観客の心を掴む
ザ・パンチの引用部分は1本目の最初、いわゆる「つかみ」のところです。
にこやかに登場し、穏やかに観客へ語りかけている部分でございまして、会場の雰囲気をよくするやり方としては割かし王道ではないかと思われます。もう必要以上に観客へ優しい声かけをしている。何度となく頭を下げる。
状況が変わったのは「チャース、チャッチャチャチャース」という一発ギャグをしたところからです。いきなりギャグをすることで「何が起きたのか」と観客を一瞬、緊張させたあとで、再び優しい声がけをしながら自虐を始めるわけです。本当に優しい言い方で自虐に走る。
芸人の方のネタでは、敢えて(もしくはマジで)スベったあとで、そのスベったことをフリにして自虐などで笑いを取る手法がしばしば見られますけれども、穏やかに観客へ語りかけながらそれをやるという新しい手法を開発しています。少なくとも私は見たことがありません。だからこそ、「すいません、生まれてきて」なんて結構強い自虐でも悲壮感が全然感じられず、笑える形になっています。
このつかみによって、ザ・パンチは観客の心を文字通り掴んだのでしょう。決勝まで勝ち上がるほどの影響があったと言っても過言ではありません。
8.ガクテンソク ――一言一言の役割をキッチリ持たせ、平均点を高める
ガクテンソクで引用するのは1本目の後半部分です。
よじょうさんのボケ方は多彩で、引用部分の3箇所とも形が異なっています。皮の部分はいわゆる王道の三段落ち。剥製のところは何か違和感があるんだけどおかしなところがイマイチ分からず、ツッコミの説明によって初めておかしさが明らかになる形。ワインのところはワインでふって、ビールで落としています。
奥田さんのツッコミは、ひとつのボケに対して、二言も三言も言う形でございますけれども、それぞれの発言にキチンと意味を持たせています。
例えば、鶏皮の部分では、即座にどこがおかしいかを指摘し、続いての発言では具体的なおかしさに言及しています。剥製のところでもまず一言目におかしい点を指摘して、二言目では、それによって見られるであろう奇妙な光景を端的な描写で説明しています。ビールのところでも、おかしなところを指摘し、続いてそのおかしなところを広げ、それから少し前のボケを伏線回収のような形で再利用しています。
ガクテンソクのすごさはどのネタも最初から最後までこのような感じで、様々な形のボケとツッコミを高い品質で繰り出し続けているところです。そのためか、今回これを書くにあたり引用候補が5箇所になってしまいました。候補の多さでは過去最高です。平均点の圧倒的高さ。これが優勝した最大の要因かもしれません。
今回の感想は以上となります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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