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ツッコミをふたつの要素に絞って考えてみました

 ツッコミはふたつの要素で説明ができるんじゃないかと思いついてしまったんです。その要素とは「否定」と「肯定」です。

 ツッコミの典型例として真っ先に挙げられる言葉は「なんでやねん」でしょう。敢えて共通語で表現するならば「なんでだよ」でしょうか。「なんでそんなことするんだよ」とか「なんでそんなこと言うんだよ」とか、往々にしてそういう意味合いで使われています。漫才の中でボケのおかしな点を指摘するという役割を担っているからツッコミなんて言われますが、相手の言動を否定しているとも言えます。

 逆に肯定は「ノリ」と言いますね。「ツッコむ」に対して「ノる」なんて使い方をされます。ボケがちゃんとした話をしているから肯定して話を進める場合もありますし、ボケが明らかにおかしな言動をしているのにまるでおかしくないかのように話を進めて笑わせる場合もあります。

 否定と肯定が混ざっているツッコミも存在します。その筆頭が「ノリツッコミ」ですね。一旦はボケの主張にノり、それから思い出したかのようにツッコむ手法です。つまり、最初は肯定し、途中でいきなり否定する。

 ぺこぱの松陰寺さんのツッコミは一時期「否定しないツッコミ」と言われていましたが、よくよく確認してみると、最初はいかにも普通のツッコミのような言い方をして、途中からツッコミを放棄します。分かりやすい例ですと、おじいさん役をしている相方が急に機敏な動きでパラパラを踊りだした時、「いや、おかしいだろ、……って言えるのもあと30年だ」なんて言うわけです。否定と肯定の要素で考えるなら、ノリツッコミは「肯定→否定」であり、否定しないツッコミは「否定→肯定」と変化している。そういう意味で、ノリツッコミと否定しないツッコミは真逆の関係であると言えます。

 ボケの言動などを他の何かに例えてツッコむ「例えツッコミ」もまた、否定ベースのツッコミに肯定を加えたものだと考えられます。相方のためにわざわざ別の何かに例えてツッコむという行為が相方を暗にちょっと肯定しているんじゃないかということですね。この場合は「相手にちょっとノってる」という表現のほうがしっくりするかもしれません。

 セリフは否定的だけど行動が肯定的というツッコミは他にもあります。ツッコミの中にはユニゾンするかのように、ボケとツッコミが同じタイミングで同じツッコミをする形があります。マシンガンズや、今は解散してしまいましたが、ハリガネロックというコンビがやっていたと記憶しています。セリフは完全なる否定であったとしても、同時に同じツッコミをするという行動は、観客からしてみたら「どれだけ気が合うんだよ」というか「どれだけ練習したんだよ」というか、言葉とは裏腹に相方を肯定していると感じ取れるものになっています。

 もちろん、基本形よりも否定の要素を強めたツッコミもあります。言葉だけでなく、相方を叩くなどしてツッコむ「どつきツッコミ」がその代表格です。手を出すなんて、漫才じゃなかったらただの暴力です。それを舞台上でうまく見せることでウケを狙うわけですね。それから、ボケの言動をツッコまず無視をする「すかし」と呼ばれるものもございます。無視もまた強力な否定であり、漫才じゃなかったらいろいろよろしくない行為ですが、舞台上でうまく使うとウケも狙えるというわけです。ただし、「すかし」の場合は「本来の漫才ならツッコむはずだ」という先入観をフリにしている部分もあるとは思います。

 ですが、このような否定を強めたツッコミもまた、完全な否定ではないでしょう。相方と同じ舞台に上がり、同じマイクで漫才をしている時点で相方を肯定している。だからこそ、ツッコミがどれだけボケを否定しても笑いが生まれる部分はあると思います。不仲だった頃のおぼん・こぼんだって、解散せずに舞台へ上がっていたのは、互いに相方を完全に否定していなかったからでしょう。そう言えば、おぼん・こぼんのふたりはネタ中に舞台上で殴り合ったそうですが、曲がかかった途端にふたり揃ってタップダンスを始めたというエピソードがございます。これもまた、相方を完全に否定しきらなかった証拠だと思います。

 同様に完全な肯定も存在しないでしょう。前出の「否定しない」ツッコミとされていたぺこぱの松陰寺さんだって否定の要素は入っていましたし、何なら、もっと肯定的なツッコミをしていたコンビがいました。ジェニーゴーゴーというコンビです。彼らは一時期、見るからに仲良さそうなネタをあらびき団などで披露していました。例えばボケが「あなたが未来のダウンタウンですか」なんて言うと、ツッコミが「嬉しいけど気が重いよ」と言ってツッコむ、みたいな感じだったと記憶しています。微笑ましいやり取りではあるんですが、前提として「あなたはダウンタウンではない」という事実を使っているわけで、完全なる肯定かと言うとそうではないでしょう。

 こんな感じでツッコミを否定と肯定の要素で考えると面白いかなと思いまして、ここに書いてみました。新しい見方ができるので皆様もよろしかったらどうぞ、と書いたところで何人の方がやってくださるかどうか分かりませんが(肯定→否定)。

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