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全ての乗り物があてにできない

 飛行機が怖い人は一定数いらっしゃいます。私も怖いです。乗っている間は常に頭のどこかで万一の事態を覚悟しています。

 そういう人に飛行機の安全性を説いて安心させようとしてくれる方がいらっしゃいます。彼らが根拠とするのは死亡率の低さです。もう必ずと言っていいほどこれです。飛行機は自動車の死亡率よりも遥かに低い。でも、自動車は平気で乗れてるでしょ。だから、飛行機だって平気で乗れるはずだよ。こういう論調です。

 安心させてくれるお気遣いは感謝しますが、こっちは自動車だって怖いんです。飛行機と同じく、頭のどこかで万一の事態を覚悟してるんです。だから、私は義務化される前から後部座席でシートベルトをかけていました。

 たまに「俺の運転が信用できないのか」と憤るドライバーもいらっしゃいましたが、屈することなくシートベルトをしていました。誤解なんです。あなたの運転が信用できないのではなく、全人類の運転が信用できないだけなんです。仮にあなたが安全に配慮した運転をしたところで、安全無配慮の車が突撃してくるかもしれない。そもそも後部座席の乗客がシートベルトをしただけで腹を立てる気の短さは杞憂のプロこと私には不安しか与えません。ちゃんとシートベルトを締めねばとの決意を強めるに決まっています。

 全人類の運転が信用できないわけですから、当然ながら自分の運転なんて世界一信用していません。大学生だった頃、夏休みに帰省したら両親が自動車学校への手続きを済ませてあった時がありました。次の日から自動車学校に行ってくれと。私に運転をさせるなんて鬼かと思いましたが、両親は「自動車の免許は絶対に要るって」と言って譲りません。幸い、教習中に事故は起こしませんでしたが、受ける授業を間違えて免許取得を遅らせてしまいました。こんな人の運転が安全なはずありません。なので、免許取得以降、社会のためを思って二度とハンドルを握っていません。お陰でゴールド免許です。ただ、身分証としては最強なので、確かに両親の言う通り「要る」とは思いました。

 そうやって、「もしも」への覚悟を続けていたわけですが、最近になって「飛行機安全説」の亜種みたいなものと出会いました。それによると「飛行機はエレベーターよりも死亡率が低いから安全だよ」とのことです。

 もちろん、エレベーターだって怖いに決まってます。狭いし動くし、なんか変な音もなるし。ダメ押しは昔に見たサスペンスドラマです。犯人はエレベーターが来てなくてもドアが開くように細工したんです。ピンポーンといつものように音が鳴り、ドアが開いたらそこはポッカリと開いた暗い空間。エレベーターがなく、ケーブルが上下に伸びているだけ。あわよくば落下死させようという犯人の策略でございました。当然ながら、そんな場面を見た私は思いました。「やっぱりエレベーター危ないじゃん」。

 以来、エレベーターのドアが開いても、そこにエレベーターが来ていないことを想定して少し待つようになりました。今のところはドアが開けばエレベーターはちゃんと来ていますが、今まで来たから次も来るという保証はありません。油断して開いた瞬間に足を踏み入れそうになるあたり、自分の注意力はまだまだだなと痛感する次第です。

 人が動かそうと機械が動かそうと乗り物は怖い。こうやって書くとなんかものすごく生きづらそうに見えますけれども、割と厚かましく生きています。

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