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猫を眺めるのも気をつけたい

 仕事先から自宅へ戻る途中で、怪しい男性を見たんです。とあるお宅の庭を、壁越しに見てニヤニヤしているんです。

 当時スッカリ日が暮れて辺りは暗く、男性は街灯の光を背に受けているためか顔が影で見えづらい。それがまた笑顔を不気味にしているんです。ましてや人の庭をガン見しているわけでございまして、不審なこと限りなしです。

 最初は来た道を引き返そうとしましたが、すぐにひとつの予想が思い浮かびまして、男性のそばを通って確かめることにしました。予想は当たりました。家主のいない、暗い庭の中心にいたのは、すました様子でちょこんと座っている猫でございました。男性は猫を見てニヤニヤしていたんです。

 世に猫好きは多数いらっしゃいますし、猫はそこらじゅうを歩いています。だから猫が他人様の庭で休むこともあるでしょうし、それを見た猫好きが笑顔で見守ることも不思議な現象ではありません。ただ、夜だったので不審度が倍増していただけの話でございました。

 しかし、家に帰ってふと思ったんです。「あの猫、本物だったかな」と。確かに他人様の庭には猫がちょこんと座っていましたし、その庭が猫の休憩場所であることは以前から知っていました。ただ、その猫は暗がりにいましたし、私が確認したのは一瞬なんです。その時の猫は動いてないように見えました。だから、ぬいぐるみだったとしても気づかないかもしれないなと思ったんです。

 仮にぬいぐるみだった場合、あの男性は何をしていたのか。ふたつの可能性が考えられます。

 ひとつは、家主が何らかの理由で庭にぬいぐるみを置き、それを男性がマジ猫と勘違いしていたパターンです。「この家主は庭で何をしているんだ」という疑問は残りますが、庭を見てニヤニヤしている男性はちょっとウッカリさんなだけで、不審の度合いは低いです。

 もうひとつは、男性がわざわざ他人様の庭に侵入してぬいぐるみを設置し、再び外に出て壁越しに自分のぬいぐるみを眺めているパターンです。世の中にはぬいぐるみと一緒にどこかへ出かけて写真を撮って楽しむ方がいらっしゃいますけれども、それを他人の庭で暗がりに紛れてやっているタイプです。こっちのほうがヤバさとしては上のように見えます。

 いずれにしろ、人目をはばからずに他人様の庭で休んでいる猫を見てニヤニヤしていると、通りすがりの人間からあらぬ疑いをかけられてしまうわけです。私も可愛らしい動物を見るとついつい交流したくなる欲望が沸き上がってしまう人間なので気を付けようと心に誓った次第です。

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