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畑の最晩年の景色だったのか

 普段通る道のそばに畑があったんです。住宅地の中にそこだけポッカリと畑になっている。そんなに広くはありません。慎ましやかな民家を2軒も建てればギュウギュウになってしまうくらいの広さです。

 そんな畑ですが、毎年のように作物が育てられていました。大根だったり里芋だったり。どこかに出荷しているのか自宅で消費しているのかは知りませんが、熱心に作られていました。

 ある日のことです。私がいつものように小さな畑のそばを通りますと、様子がおかしいんです。大根が植えられていたんですが、その50センチほど上を大量の虫が飛んでいたんです。虫の群れはどこかへ飛び去ってゆくでもなく、外から新たな虫がやってくるでもなく、畑の少し上を雲のように覆いながら飛んでいる。私が近寄っても逃げる様子がない。間近で見ても虫の種類は分かりませんでしたけれども、羽虫の類であることだけは何となく予想できました。

 しかし、不思議です。もう何年もその小さな畑で作物が作られているのを見てきましたけれども、こんな現象は初めて見ました。どうしてこの時だけ虫が畑を覆うように飛んでいたのか。

 しばらくして理由が何となく分かりました。畑だった場所はあっという間に造成され、すぐに2軒の民家が建てられたんです。つまり、虫が飛び回っていた日は、畑の最晩年と言ってもいい状況だったのです。

 消えゆく畑を虫たちが惜しんでいたのか。もしくは畑の断末魔だったのか。昔の人が見たらそう思ったかもしれません。というのも、村の住民たちに親しまれていた大木を権力者のわがままで切り倒されるみたいな昔話をちょこちょこ聞くからです。木の精霊や神様の類が出てきちゃうメルヘン&オカルトパターンもありますけれども、大木に大量の鳥が集まって別れを惜しむようにギャーギャー鳴きまくるという現実的なパターンもございます。

 さすがに精霊&神様はゴリゴリの創作である可能性が高いですが、鳥パターンは実際にあった現象かもしれません。どうせ切られるのだからと村の住民が大木の管理をしなかった結果、大木に大量の虫が湧き、それを食べに鳥が集まった可能性は充分に考えられます。鳥がギャーギャー鳴いたのは「切るな!切るな!」ではなく「飯だ!飯だ!」だったのかもしれないわけですね。幽霊の正体見たり枯れ尾花。種を明かせば案外こんなもんなのかもしれません。

 思えば、虫が飛びまくっていた時の畑には、抜かずに放置されて枯れかけている大根が大量に残っていました。羽虫の群れたちはそれを食べようとしたか、産卵場所にしようと考えて集まっていた可能性があります。ただ、仮にそうだったとしても自然の不思議を十二分に感じさせる減少でしたし、あの畑を覆う様な虫の雲は夕日に照らされていたことも相まって幻想的な景色でございました。

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