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科学にも芸人魂を?

 ロンドン自然史博物館についての講演を聞きに行ったことがあります。ロンドン自然史博物館は膨大な標本が収蔵されていて、研究や企画展のためによそへしばしば貸し出されています。現に講演をした方は「大英自然史博物館展」みたいな企画展にかかわった人でした。

 企画展をやる際に、博物館側から貸し出し可能な標本リストを受け取りまして、それをじっくり見ていたところ、とある標本の名前にテンションが爆上がりだったそうです。「ピルトダウン人」。20世紀初頭に「発見」された標本で、現代人における直系の祖先としては最古の骨とみなされかけるも、のちに人とオラウータンの骨を合わせて加工した偽物と判明、科学史上でも有数の捏造事件にまで発展します。

 ピルトダウン人は、ロンドン自然史博物館にとって汚点とも言える標本です。しかし、博物館側はそれを処分せず、標本として現在も保管してあります。それどころか、研究や企画展のために貸し出しもしている。私も上野の「大英自然史博物館展」で実物をじっくり拝見しました。

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ピルトダウン人とされていたもの(茶色い部分)

 嫌な記憶には誰でも蓋をしたくなる時があります。でも、それを糧にして、何かに活かせるならば、そのほうがいいはずです。ネタにして笑い話にしてもいいですし、次の失敗を防ぐための研究材料にしてもいいわけです。「ロンドン自然史博物館」は、誰でもやりがちな失敗に対する姿勢を、身をもって示していると言えます。

 そう言えば、講演者はこうも言ってました。「そういう意味では、私は偽物のSTAP細胞が欲しい」。

 理研のSTAP細胞事件はご記憶な方も多いと思います。あれだって単なる失敗として終わらせずに保管し、研究や企画展のために貸し出せば、科学史のダークな一面を知ると共に、その知識は事件の再発防止に活用することだってできるはずです。

 例の細胞が現存するのかどうかは分かりませんが、私、数年前にたまたま理研の方とお話する機会がありました。別にSTAP細胞の話をするつもりはありませんでしたが、向こうから「いやあ、STAP細胞の頃は大変でしたよ」と言ってくださいました。「この方ならいける」と思った私、長岡半太郎が水銀を金にする実験をして派手に失敗したという昔の理研のスキャンダルを小話に加工して披露したところ、結構笑ってくれました。それなりの月日も流れましたし、理研の中にはもう整理がついている人が結構いるのでしょう。

 自分の失敗を隠さず、自らいじる。そういう芸人的な考え方が万能とは思いません。ただ、腫れ物のように扱うよりもよほどマシな場合があるのは事実であり、それができるならやっていきたい。これからもいろんな失敗が控えているであろう私はそう思いました。 

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