見出し画像

ソメイヨシノがソメイヨシノにソメイヨシノを贈呈するソメイヨシノ

 とある学校のそばを通ったんです。

 教育の一環なのかは知りませんが、学校は敷地内に木が植えられていることが非常に多く、またその木には往々にして名前などが書かれたプレートがつけられています。

 とある学校もまたそうでした。桜の木に、白いプラスチック製のプレートで「ソメイヨシノ」と書かれている。ご丁寧に「〇〇年度卒業生 贈呈」とも書かれていました。

 その日はたまたま、とある学校の外周をグルッと回るルートで歩いていたんです。だから気づいたんです。「ソメイヨシノ 〇〇年度卒業生 贈呈」のプレートがかけられた桜の木が、学校の敷地内にやたら生えてるんです。外から柵越しに見てもそこかしこに生えているのが分かる。

 卒業生が贈呈する樹木の多さは学校の歴史がいかに長いかを物語っているわけですから、それは結構なことなんですけれども、さすがに気になったんです。これ、そのうち植える場所がなくなるぞと。

 とある学校があまりにもソメイヨシノだったんで、後日その学校の周囲をグルッと回ってみたんです。敷地を囲む柵に面した空き地は、どこもかしこもソメイヨシノが等間隔に生えていました。つまり、外堀は全てソメイヨシノで埋まったと言っていい。

 じゃあ、学校の中央近辺はどうなのかという話です。私は学校関係者ではありませんので、勝手に校内へ入って全ての木をチェックするわけには参りませんが、外から眺めてみた限りでは、中の方にもプレートを付けた桜の木が見えるんです。遠くのものになりますとプレートの文字が判読できませんが、恐らくは卒業生が贈呈したソメイヨシノでございまして、内堀もかなりソメイヨシノになっていることがうかがえる。

 私は常々「もし心配するだけで飯が食える仕事があったら一生安泰だ」と確信しているほど杞憂が得意なプロ杞憂選手を自称しております。だから、「〇〇年度卒業生 贈呈」のソメイヨシノが学校の敷地内に3本もあったら「このままじゃ卒業生贈呈のソメイヨシノで学校が埋もれてしまう」と不安になれるわけなんですが、私が見かけたとある学校に限っては、杞憂ではなく今そこにある危機なんです。マジで卒業生が代々プレゼントしたソメイヨシノによって全ての空き地が侵食されてしまう。すぐにでも対策が必要な状態でございます。

 現実的な対策は、他の木を引っこ抜くことです。そこのケヤキも、あそこのツツジも、みんなソメイヨシノに場所を譲るんです。何しろ、卒業生贈呈です。ケヤキもツツジも、ひょっとすると創設者が自らの手で植えられたのかもしれませんが、だったらやっぱり卒業生に譲ってほしいところです。

 しかし、いくら創設者が懐の深さを見せたって、卒業生贈呈ソメイヨシノは年に1本のペースで増えますから、やっぱりすぐに埋もれてしまう。続く候補はグラウンドです。野球場もサッカーコートも、何なら体育館にだって卒業生のソメイヨシノを進出させます。運動部はソメイヨシノがそこら中にニョキニョキ生えた特殊な環境での試合を余儀なくされますから、他校のチームとは明らかに異なる特徴を持ったスタイルになるでしょう。それがプラスかマイナスかは分かりませんが。

 グラウンドも体育館も占領したら、次はいよいよ校舎です。各教室に卒業生のソメイヨシノが植わるのは間違いない。職員室も屋上も、もちろん校長室もソメイヨシノの魔の手からは逃れられません。

 全ての土地がソメイヨシノ化したら、今度は在校生と教職員にも卒業生のソメイヨシノが進出します。ソメイヨシノがソメイヨシノにいろいろ教え、晴れてソメイヨシノが卒業した暁にはソメイヨシノにソメイヨシノを贈呈するわけですソメイヨシノ。

 さすがに意味が分かりませんね。やりすぎたと思います。どうもすいませんでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?