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冷蔵庫に人見知り

 なんとなくポケモンスリープをやってるんです。リリース初日からやってるんで、1ヶ月少々プレイしています。

 変なネタバレを発掘しそうで、敢えて何も調べずにやっているのでまだまだよく分からないことが多いんですけれども、何となくやっている限りでは、ポケモンスリープはスマートフォンのそばで寝て起きると何やらいろいろ発展しているゲームのようで、寝れるだけ寝といたほうがゲームとしてはいい効果が出る形になっています。たぶんそんな感じだと思います。

 スマートフォンがどうやって人の睡眠を検知しているのか。調べたらすぐ出てくるんでしょうけど、何しろ今の私はネタバレを拒否している身体です。自分で観察し、推測するしかありません。あれこれいじくっていると、スピーカーがどうのこうのとというメッセージが出てくるため、音声を感知して寝てるかどうか判断しているのかもしれません。そのためか、寝つきが悪くて1時間くらい横になって静かに休んでいるだけでも、あとで測定結果を見てみると5分で寝てることになっているんです。とりあえず、寝てる判定をゲットするためには静かにしといたほうがいいようです。

 しかし、睡眠はそう単純な話ではありません。横になってから、急に歯を磨き忘れたと気づく時がある。ようやくグッスリ眠れたかと思えば、夜中に用を足したくて目が覚めてしまう時もある。いずれにしろ、当然ながら枕元では我がポケモンスリープが睡眠計測中でございまして、下手にバタバタ物音を出してしまったら「こいつ寝るのやめたんじゃね?」と感づいて計測をやめてしまうかもしれません。

 そのため、抜き足差し足で寝室を出るわけなんですが、ある日気づくわけです。何で私がポケモンスリープに気を遣って生活せねばならないのかと。プライベートをちょっとだけ彩るスマホゲームのはずが、いつの間にか神経質な同居人扱いです。

 ここで私、冷蔵庫を買い替えた時のことを思い出しました。初めて冷蔵庫を買った頃は今よりもお金がなく、生活の全てを切り詰める必要がありました。結果として、ちょっと大き目の段ボールサイズの冷蔵庫を買うことになりました。安いし、ひとり暮らしならこれくらいで全然大丈夫だろうとたかをくくっていましたが、それでも3日分の食料が入るか入らないかの容量です。だから、細かな買い出しを強いられるんです。2日置きにスーパーでちょっと買ってを繰り返さなければならない。これは面倒です。更にこの冷蔵庫、冷凍はできませんし、霜取りもしなきゃいけない。昼夜問わず暴れん坊マッサージ器みたいな音もします。

 便利さよりコストを重視した冷蔵庫ではございましたが、まあ人間なんだかんだ言って慣れてくるわけです。冷蔵庫の癖も分かってきますし、その癖を利用した活用法なんかも編み出します。「意外と使えるじゃん」と錯覚できるようまでになります。

 そうすると、生活に余裕が出てきても買い替えるのが面倒になってくるんです。お店に行って製品をチェックし、時には店員に聞いて価格交渉もして購入やその他の手続きを済ませ、自宅に搬入してもらう。もちろん、旧冷蔵庫の処分も考えなければならない。なんという作業の多さ。面倒くさすぎて身体が液状化しそうです。そのため、小さな冷蔵庫をダラダラ使っているうち、余裕で10年以上の月日が流れてしまいました。

 一身上の都合で引っ越しを控えていたある日、あれほど四六時中ブンブン言っていた冷蔵庫が静かになっていました。ドアを開ければ緩い冷気を辛うじて吐き出すだけ。いろいろやってみたんですが、冷蔵庫は動かず。どうやら寿命が訪れたようです。ならば仕方がないと、引っ越しを機に冷蔵庫の買い替えを決心しました。

 新居にやってきた冷蔵庫は前より倍は大きく、冷凍庫もちゃんとついています。霜取りも必要ないですし、静かなのも売りでした。きっと以前より便利な冷蔵庫ライフが送れるに違いありません。

 しかし、いざ自宅に冷蔵庫が来ると、私は電源もつけずにしばらく眺めていました。何しろ10年以上もの間にわたって小っちゃい冷蔵庫を使いこなしてきたため、急に倍以上でかい冷蔵庫を手に入れてもどうしたらいいのか分からないんです。どこに何を入れればいいのか、全然プランが練られない。

 とりあえず、恐る恐るドアの手触りを確認したり、説明書を隅から隅まで読んでみたり、冷蔵庫と冷凍庫を代わる代わるに覗き込んでみたりしているうち、初日は電源を入れずに過ごしてしまいました。

 自分でも何をしているのかよく分かりませんでしたが、後になって思ったんです。あれは冷蔵庫に人見知りしていたんじゃないかと。冷蔵庫は人じゃありませんから、物見知りですね。

 冷蔵庫に物見知りするくらいですから、スマホゲームに気を遣うのも仕方がない気がします。ひとりの生活でも何かに気を遣うだなんて、孤独ならではの淋しさと人間関係特有の同調圧力を同時に味わってるようでものすごく生きづらそうに見えますけど、まあ楽しく暮らしています。

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