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おふざけ勉強法とその弊害

 中学生から高校生にかけて、ゲームと漫画にどっぷりハマった生活をしていまして、恐らくは人生で最も遊んでいた時期だったと振り返ります。当然、学校の成績は下がる。高校受験の時は志望校を5ランク下げ、両親からは「あいつはどうしようもない」と言われておりました。

 勉強はしたほうがいいとは思ってました。ただ、勉強以上にゲームや漫画は面白い。もう桁外れに面白いんです。高校生になってからもゲームや漫画は面白いし、それに比べて勉強はしんどい。成績がどうなったかは言うまでもありません。高校3年の5月の模試では、「そんな成績じゃどの大学も受からないよ」みたいな評価が数字でバシッと出てきました。特に英語と数学が壊滅的な点数で、これは受験生としては致命的です。さすがにまずいと焦るも、しんどいしんどい受験勉強を1年近くも続ける自信がありませんでした。

 どうしたもんかと悩みながら進路指導室をのぞいてみると、先生が1冊の本を貸してくれました。タイトルと著者名は今でも覚えています。「予備校講師が教える 英語・ウカる勉強法・ダメな勉強法」、山田弘さんの著作です。タイトルから想像できるように、受験生の勉強法が書かれていました。英語の講師ということで英語の勉強に特化してはいましたが、他の教科にも若干触れているなど意外と汎用性のある本でした。

 どれだけ著者の趣旨通りなのかはともかく、読み終えた私はこんな感想を抱きました。「勉強でふざけてもよかったんだ」。

 例えば、印象深い著者の主張としてこんなものがあったと記憶しています。「エッチな例文に腹を立てるな」。英語の授業には例文がつきものです。英語の文法や熟語を覚えるため、ひとつの文章を通して具体的な用法を学ぶわけですね。そして、著者はしばしばその例文でエッチなものを使う。当然、途中で席を立つ女子学生がそこそこ、男子学生もごくまれにいたそうですが、それでも使い続けた著者はこう主張します。「だって覚えやすいじゃないか」。

 まあ、当然ながら下ネタで覚えやすいかどうかは人にもよるでしょうし、現在ではご時世的に難しいかもしれませんけれども、エッチなものを絡めると何だか知らないけどものすごいエネルギーが出てくる場合がある、というのは分かる方もいらっしゃるでしょう。エッチなものを見たいあまりにパソコンに詳しくなった、みたいな話も聞きますし。

 著者はこんなことも書いてました。「和訳を関西弁にして書いてみろ」。これもまた、覚えやすさを重視しての主張でしょう。こういう遊びがあったほうが頭に入りやすいものです。著者はこうも主張します。「もちろん、関西弁にしたことで減点されるかもしれないが、和訳の意味が合っていればマイナス1点くらいで済む。真剣な和訳を書くのは1点も落とせない本番の時だけでいい」。

 勉強は真面目にやらなきゃいけないと思っていた私にとっては、完全に価値観をひっくり返されました。「これだ!」と思いまして、できる限り勉強でふざけてみるよう心掛けました。先生に怒られるのは嫌でしたが、大学に行けないよりはマシだろうと割り切ったんです。

 それからどうなったか。もちろん、先生に怒られることはありました。解き方が分かんなくて空欄にせざるを得なかった部分に大喜利レベルのふざけた答えを書いたりですとか、不自然に巨大なグラフを書いて先生の度肝を抜こうと試みたりするんですから当然です。大体こういうことをすると先生は怒り、生徒は爆笑でした。なぜかそんな私に対抗して、答案用紙の空欄に自作の詩をイラスト付きで披露する友人が現れたりと、我がクラスの定期テストは私を発端として徐々に混沌化してゆき、「あのクラスは何なんだ」と嘆く先生がいたらしいという噂もほんの少しだけ耳にしました。

 肝心の成績はどうだったのか。これが実際に上がりまして、両親から「お前が大学に行けるなんて思わなかった」と言われるまでになりました。別に不思議な話ではございません。それまで全く勉強してこなかった人間が、曲がりなりにも勉強をするようになったんですから、そりゃあ成績も上がるってもんです。

 とりあえず、大学に入学できた私ですが、やがて特殊な勉強法に手を出した弊害が出始めます。ふざけ癖が抜けないんです。レポートやテストをやるたび、無意識にふざけたワードを入れる隙を探すようになってたんです。そして、いけないことだと知りつつも、レポートに小話を挟み込んだり、答案用紙にシュールなイラストを描いたりと、私の中の愉快犯が悪さを始めるんです。

 もちろん、大前提としてきちんと書くべきことは書き、本筋とはあまり関係のない些細なところでふざける、という姿勢は上記の「英語の関西弁訳」のところで触れた通りです。そのため、単位を落としはしませんでしたが、「あの星野という学生は一体何なんだ」という話が教授陣の間で出回ったとかどうとか。やっぱり怒られることもありまして、それでつらい思いをした時もありましたが、若い先生を中心に「面白い」なんて感想をくれるもんですから悪い意味で立ち直るわけです。

 大学受験の後遺症をどうやって直したか。残念ながら、まだ直っていないと思います。そりゃあ、私も大人になりまして、曲がりなりにもお仕事をしている。そんな人間があらゆる場面でウケを狙っていたら会議でつるし上げです。でも、誰と話していてもふざける隙を探している自分がいるんです。というか、こんな文章を書いている時点で、私の心に巣食った愉快犯が未だ健在なのは明らかです。

 ただ、大学受験を機に勉学の面白さを知ったのは事実です。勉強は嫌いだけど笑いのためなら怒られてもいい、みたいな方でしたら、副作用は強いですが、おふざけ勉強法という選択肢はありだと思います。当然ながら、自己責任でお願いします。私みたいになる可能性もありますので。

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