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耳の彫刻とR-1のZAZYさんには共通点がありました

 友人知人の中で唯一、お笑いが好きな人がいます。その女性を仮に澤田さんとしておきます。

 澤田さんとは会えばお笑いの話ばかりしていますが、時々よく分からないことを言い始めるんです。例えば、以前noteで書きましたけれども、女性お笑いコンビ「ヨネダ2000」のネタを見るや否や、ネタ中でおこなわれている相撲の突っ張りがちゃんとした形になっていない、などと言い始めるんです。「本当はこうしなきゃいけないんですよ」と言って私の前で実演だってしてくれました。ダメ出しと言うには違和感のある、何とも言いようのない指摘です。

 錦鯉がM-1で優勝した時も、最終決戦で披露したネタを見て「サルを捕まえられる大きさのカゴじゃない」という、開いた口が塞がらない指摘をしていました。

 さて、3月6日はR-1グランプリの決勝でした。私も澤田さんも当然、生で視聴しました。そして、翌日の月曜日、会えば挨拶よりも先にR-1の話が出てきます。澤田さんはZAZYさんの格好を気にしていました。もちろん、ZAZYさんをご存じの方ですから、彼が特徴的な格好をしてネタをするなんて常識の範囲内です。ただ、最近の変化がずっと気になっていたようです。

 澤田さんは言いました。「羽が生えてましたね」。確かに、R-1の時はもちろんですが、最近は羽を生やしての登場がしばしばあるようです。そんなZAZYさんを見て、澤田さんは自身の仮説を展開した。「人が何かの最終形態を考える際、洋の東西を問わず、なぜか羽を生やす傾向にある」と。

 確かに、西洋の神話では天使や妖精、悪魔に至るまで、羽の生えた面々が多いです。日本でも天狗なんかは羽が生えた形のものが見られます。最近の創作物だって、皆さんが好きなゲームや漫画・アニメ、小説、などを思い返せば、途中で羽が生え始め、最終形態になってゆくものが出てくるでしょう。私なんかはエヴァンゲリオンが思い浮かびました。あとは一部のガンダムとか。

 澤田さんは更にこんな話をしました。

「昔、三木富雄さんという、『耳が私を選んだ』と言って、耳の彫刻ばかり作ってる人の行動が気になって調べたことがあるんです。三木さんは痛みがどういうものかを確認するためにタバコの火を自分の手に押し付けて、セルフ根性焼きを何度もしたりとかしてたんです」

 何しろ芸術家になるくらいです。いくつかのエピソードを聞いただけでも、三木さんの独特さ、極端さが見て取れる。

「そんな三木さんが個展を開くってなった時、新しく作品を創ったんですけど、それが耳に羽を生やしたものだったんです。結局、三木さん自身が『これはダメだ』って言って破棄しちゃったみたいですけど、三木さんみたいな人ですら、進化させようとした時に一旦は羽を生やそうとしたんです」

 調べたところ、三木さんはその個展を開いてから数年後、若くしてこの世を去っているようです。結果的にではありますが、羽の生えた耳が三木さんの作品の最終形態になりかけた。

「三木さんが羽を生やしかけたんだから、ZAZYさんが羽を生やしても仕方がないなって」

 結局、澤田さんは芸人のいろんなところが気になってネタに集中できないという、いつもの症状が出てしまったようです。

「人が最終形態を目指すと羽を生やしたくなる心理は一体どういうことだろうってずっと思ってます」

 繰り返しになりますが、澤田さんは私の友人知人の中で、唯一お笑いが好きな人です。

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