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題名読書感想文:26 素材集は自治体にもお寺にも向けて

 題名だけ読んで本の感想を書く。それを感想文と言い張るのが題名読書感想文です。読んだならちょっとも全部も同じだろの精神です。もちろん、同じではありません。

 今回のテーマは「素材集」です。

 そうなんです。本の中には素材集というジャンルがあるんです。ちゃんと辞書にも載っています。

デザインの素材となるイラストや写真などを集めた書籍・ウェブサイト。ロイヤリティーフリーのものや、編集・加工が自由にできるものなどもある。

 繰り返しますけれども、素材集はひとつのジャンルなんです。つまり、たくさんある。競合だらけなんです。そうなると、他の素材集と差別化を図る必要が出てくる。その差別化は往々にして題名にも出てきます。

 例えば、「ふわふわ素材集」です。

 羽や綿毛、布地など、ふわふわしたものに特化した素材集です。専門性を高めることで特定の顧客を強く引き付ける商売はなかなか有効なのか広く見られる現象でございまして、素材集でも採用されています。

 「ふわふわ素材集」は専門性の高さを表しながらも、誰にでも伝わる言葉を追求した結果の題名だと思われます。可愛らしい擬態語で、素材集のノリを暗に示すことにも成功している。分かりやすく簡潔に内容を表現しているわけです。

 逆に、一見すると何のことだかよく分からない言葉をくっつけて興味を引く題名もございます。例えば、「ぽんぽん素材集」がそれです。

 「何がどう『ぽんぽん』なのか」という謎で客の興味を吸引しています。こういうのは大抵、中身で種明かしされておりまして、試しにアマゾンの書籍説明を確認しますと「まるでスタンプを押すような感覚で、ぽん! ぽん! と、素材を配置したり、オブジェクトを加工したりできる新感覚の素材集です」と書かれています。スタンプのぽんぽんだったんですね。

 不思議な題名で目を引こうと試みた素材集としては他にも「フリカケ素材集」という本もあります。

 さけ、おかか、のりしお。古今東西のふりかけに特化した、ふりかけユーザーおよび業界は垂涎ものの素材集がついに誕生です。そんな採算度外視にも程がある素材集ではなく、幾何学的なパーツを写真の上からふりかるタイプの素材ばかり集めた本でございます。

 言われてみれば、たまにそういうフリカケを見たような気はします。素材集があったんですね。

 ちなみに、人気があったのか続編にあたる本もございまして、こちらは「フリカケ素材集MAXX」という題名になっています。

 こちらも同様に、写真にふりかけるものばかり集めた内容のようです。

 他にも、こんな素材集があります。「からだハッピー素材集」です。

 最近は健康志向の高まりからか、いろんなものが「これを使うと健康にもなりますよ」と、健康を売りにした商品がございます。当然ながら、本にもそのようなタイプが存在します。健康法について書かれた本ではなく、使えば健康になる本という売り方です。

 「からだハッピー素材集」は一見すると、そういう本あるかのような題名ですけれども、実際にはスポーツや美容、もちろん健康も含めた、「からだ」がテーマの素材ばかりを集めたもののようです。

 誤解を招いているのは「ハッピー」なんですけれども、「からだ素材集」だと手や足みたいな身体のパーツばかり集まったものに思えてしまいます。明らかに違ったものを連想させるのは、題名としては基本的によろしくありません。そこで「ハッピー」を付け加えたのだと考えられます。

 ところで、「ふわふわ素材集」でも触れた通り、専門性を高めることで特定の顧客を引き付け、買ってもらう戦略があるようです。素材集には、敢えて使う人を限定しているものがございます。例えば、「自治体・公務員・福祉活動に役立つ ふれあい素材集プリント&イラスト3000」です。

 自治体、公務員、福祉活動。この3本柱に特化した素材集です。世の中に数多ある仕事の中には公的機関が主な顧客になっているものもございますけれども、素材集でもやってみた形です。

 しかし、自治体、公務員、福祉活動に向いている素材って何なんでしょう。どこへ出しても何の問題もない、比較的ほんわかとした素材であることは何となく想像つきますけれども、自治体らしさ全開、これぞ公務員、ザ・福祉活動、みたいな素材とは何か考えると、なかなか難しい。上記の本はそんな難解な問題をクリアした素材集と言えます。

 最後に、こんな素材集も見つけました。「お寺のためのフリー仏画素材集」です。

 お寺向けの素材集というだけでも驚きなんですが、何よりも「フリー仏画」というパンチラインです。仏画にフリーとか有料とかそういう概念があるなんて考えもしませんでした。アマゾンの書籍説明もなかなかで、「御朱印・お守り・寺報・お寺のホームページ用に仏画などのフリー素材が200点以上!」という、魅力だらけの文章が綴られています。

 「御朱印を作りたいけど、デザインの経験がない」「お守りの模様をどうしたらいいのか分からない」「仏様を描くといつもとんでもないものが出来上がってしまう」みたいな悩みが寺院関係者に多く、それに対して素材集で答えた形なんでしょう。馴染みのない業界は本当に面白いです。

 素材集は多彩を極め、様々なものが売られています。そうかと思えば、逆に「素材を使わないデザイン」なんて本もあるんです。

 素材集の世界も奥が相当深そうです。

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