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いいお笑いはいい文章である、ただし半分は  モグライダー芝さんの「2分59秒」編

 動画サイトのABEMAに「2分59秒」という番組があるんです。毎回、数名のゲストが2分59秒という制限時間で何らかの主張をするんですが、一部がYouTubeでも公開されています。その中でモグライダーの芝さんの主張に感心してしまったので、取り上げてみたいと思いました。

 お笑いでもそうですけど、相手に自分の話を口頭で伝える場合、大きく分けてふたつのタイプに分かれると勝手に思っています。本人の気持ちを前面に出し、表情や話し方を武器にするホットタイプと、人に伝わりやすい言葉選びを大切にし、理論立てて話してゆくクールタイプです。もちろん、ほとんどの人はどちらかへ極端に偏ることはなく、ホットとクールの狭間にいて、両方の方式を自分なりに織り交ぜて会話をしているでしょう。ただ、文章に起こすと良さが分りやすくなるのは圧倒的にクールタイプです。

 モグライダーの芝さんはクールな見た目や言動からも分かる通り、かなりクールタイプ寄りの人だと思います。相方のともしげさんとは対照的ですね。それゆえに、文章にすると良さが目立ってきます。特に、今回の場合は「2分59秒」という極めて短い制限時間があります。だから、必然的に話す内容をしぼり、単語の一つひとつに至るまで慎重に言葉を選ぶ必要がある。特にクールタイプであればあるほど、その傾向は強くなるでしょう。

 というわけで、実際に芝さんの主張を見ながら、あれこれ勝手に書いていきたいと思います。参考動画は次のものとなっていますので、よろしければご覧ください。

【参考動画】

 以下、芝さんの主張を引用しつつ書いていきます。読みやすくするため、発言の細部を若干変えたり、カッコ書きで補足したりしている部分がございますので、ご了承ください。

1.テーマの選び方と話す事柄を端的に提示する

 まずは冒頭から参ります。

【参考動画 0分3秒辺り】
 「田舎に住もうと思ってんだよね、もう移住して」って言う人に僕は「何で田舎がいいの」って聞くんすけど、大体が「静かでいいじゃん」「治安がいいでしょ」「いい人ばっかりでしょ」って答えなんですよ。
 でも、マジの田舎から僕、出てきてるんで、「危ないよそのイメージ、むしろ真逆だよ」って言いたいんですね。なので、今日皆さんにマジの田舎を教えます。

 導入部分です。何を主張するかを端的に説明するところですね。

 まず話すテーマです。「みんなが抱いているイメージとは違うんですよ」という主張は人の気を引くものです。「田舎っていいよね」みたいなイメージを持っている人はもちろんですけれども、「田舎暮らしなんてそう甘くないよ」と思ってる人だって、「『マジの田舎』って何だろう」と気になる入りになっています。

 また、都会の人が抱く田舎のイメージを「静かな環境」「治安の良さ」「温かな住民」の3点に絞り、冒頭に持ってきたのもポイントです。マジの田舎って何だろうと気にさせつつも、話す内容をあらかじめ提示して、話を聞きやすくさせています。

2.敢えて大雑把な具体例を話して本編に繋ぐ

【参考動画 0分27秒辺り】
 僕の地元っていうのが、愛媛県松野町っていうちっちゃい町のその外れにある狭い集落なんすけど、当然、自然しかないんです、周りは。
 自然がいいって言うんすけど、自然ありすぎると日光が入らなくなるんすよ、木が多すぎて。なんで、実はマジの田舎って、四六時中、薄暗くてどんよりしてるんすよ。

 マジの田舎のエピソードとして、ジャブを入れた形です。

 自然と言えば何となくいいものだというイメージがあり、田舎に憧れる人の大きな理由にもなっているでしょうが、それにしっかりと異を唱えます。確かに田舎って精神的にはともかく、物理的にどんよりしたイメージを抱きづらい。まばらにある家、広がる田んぼ、それをさんさんと照らす太陽、みたいな想像をしがちであり、そこを見事に突いた形です。

 この辺の話はのちに出てくるエピソードに比べるとまだ抽象的で、そしてソフトな内容です。田舎のイメージをバシッと覆しつつ、段階的に田舎のヤバさを提示することで、これから出てくる衝撃的なエピソードへの橋渡しとして機能しています。

 また、芝さんの地元がどんなところなのか、重要な部分だけを残して端的な表現にしているところも見逃せません。

3.ヤバい具体例で興味を引くだけでは終わらせない

【参考動画 0分47秒辺り】
 その暗くて細い道を(通って)小学校通うんですよ、歩いて。想像してください。こっちが山でこっちが川。で、これ(道には)ガードレールないです。その代わり電流ロープが張ってあるんですよ。これは獣対策で。
 この山側を歩いて子供は行くんですけど、これ通学路ですよ、上から猿の骸骨がゴロゴロって落ちてくるんです。「うわっ!こわっ!」ってこっち避けたら(電流ロープに触って)バチンって食らうんですよ。通学路がまずムズいんですよ。
 ファミコンの「魔界村」って知ってますかね。あのまんまだと思ってください。魔界村から来てるんです、僕。

 いよいよ本編です。具体的なエピソードを披露して自分の主張を強固なものにしてゆくという、説得力ある話し方の見本みたいな形になっています。

 もう猿の話で聞く人の興味をしっかりと引いています。なかなか他所では経験できない、衝撃的なエピソードではあるんですが、それだけで終わらせてはいません。自然の恐ろしさを伝えつつも、「獣」や「猿」といった、のちのエピソードに続く単語を何気なく入れています。

 また、話に出てくる「ファミコンの『魔界村』」は1986年に発売されたアクションゲームであり、ダークな雰囲気に加え、とにかく激烈に高い難易度が話題になりました。当然、芝さんは世代だから分かるわけなんですが、「魔界村」がどんなゲームは知らなくても、名前で何となく察することができる。もちろん、分かる人は「転がってくる骸骨」や「難易度の高い通学路」なんて言葉と相まって、より一層納得できる。「魔界村」を知っている人と知らない人、どちらにも対応できる言葉として機能しています。

4.具体的な表現だけで「静かな環境」を覆す

【参考動画 1分21秒辺り】
 その僕に「田舎静かでいいよね」って言うんですよ。田舎はうるさいです。特に夜。カエルが田んぼで一気に一斉に鳴いたら、MAX80デシベルくらい行くんです。これパチンコ屋と一緒なんです、騒音レベルが。パチンコ屋で飯食って寝れますか。朝起きて仕事行けますかってこれ無理でしょ。休まんないんすよ。

 ここから、冒頭で述べた田舎のイメージをひとつずつ覆しにかかります。まずは「静かな環境」です。

 具体的な表現ばかり続いているのが分かります。夜のカエル、80デシベルという数値、そして誰もが連想できそうな「パチンコ屋」という比喩表現、更にはパチンコ屋で生活ができるかと畳みかける。いや本当に、まさに畳みかけです。かなりの説得力を感じる方がほとんどだと言われても私は信じてしまいます。

 特に「MAX80デシベル」という言葉は効率がよく誤解のされにくい表現になっています。

5.聴衆の想像を操って「治安の良さ」を覆す

【参考動画 1分41秒辺り】
 「でも治安はいいでしょ」って治安こそ悪いっての。犯罪はないですよ、人いないんで。ただ警察・法律お構いなしの動物ってのがいるんですよ。茶色い動物を想像してください。それ全部いるし、全部会います。
 で、一番おっかないのがサルの大群なんすけど、これが頭が良くて、子供しかいない時を狙って家を襲うんですよ。
 綺麗に2チームに分かれて、畑荒らすやつ、家ん中荒らすやつ、で、ボスだけ屋根の上でゆっくり待ってるんですよ。もう組織化してるんですよ、ちゃんと犯罪として。
 で、家ん中から僕の姉ちゃんのキャーって声が聞こえてバーっと見に行ったら、ちゃぶ台に猿が座って泣いてる姉ちゃん見ながら箱のアイス食ってるんですよ。世紀末です。ヤバいでしょ。

 続いて「治安の良さ」のイメージに取りかかります。

 まず「治安」のイメージからひっくり返します。ヤバいのは犯罪ではない、動物だ、というわけですね。本来の意味での「治安」とは異なるわけですが、「警察・法律お構いなし」という言葉を入れることにより、無理のない程度で治安の意味をずらしています。事前に動物の話をチラホラしたのも効果があるでしょう。

 猿の話はこれだけでひとつのエピソードとして語れる、濃い内容です。芝さんは言葉メインで伝えるクールタイプではありますが、当然ながら動作で伝える場合もあり、大体が最低限の動きにもかかわらず、非常に効果的です。猿がアイスを食う場面はその最たるものだと思います。

 特に上手なところは「茶色い動物を想像してください。それ全部いるし、全部会います」でしょう。敢えて具体的な名前をカットしている。時間短縮の目的ももちろんあるでしょうが、聞く人の想像に任せることで、聴衆に一層の現実味を抱かせるためでもありましょう。芝さんの言う動物と全く違う生物を想像する可能性は、事前に日本の小さな集落の話だと説明することで最小限に抑えています。日本に山に住む茶色い動物で普通の人が瞬時に思いつくものなんて恐らく10種もないでしょう。相手の想像にゆだねているようでいて、根底にはそういう計算がございます。

6.地元の人に配慮しつつ「温かな住民」を覆す

【参考動画 2分20秒辺り】
 「でも人はいいでしょ」って言うんすけど、いい人いるけど、変な人のほうが多いんすよ。1回、食パンだけを大量に買い占めるおばちゃんがいて、1軒の店で。その店のレジを母ちゃんがやってたんで聞いたんです。「マジで食パンだけでいいの。ジャムもバターも売ってるよ」って言ったら、「いらんいらん。アリ挟んで食うけん、いらん。余計なこと言うな」って怒られたんです。
 田舎の人、何でいつキレるか分かんないんですよ。

 最後に「温かな住民」の陥落を目指します。

 一般の人をいじることになるので、表現には気を遣いつつ、「田舎の人はいい人」というイメージを覆します。ここでは「いい人」の正反対である「悪い人」を出すのではなく、「変な人」という違った角度で攻めています。お笑い的な面白さを追求したのも理由でしょうが、悪い人を出してしまうと地元の人をそれこそ悪く言うことになってしまいますし、「治安の良さ」の部分での「犯罪はない」という主張と矛盾するため、それらを避けたかったのだと考えられます。

 特に変な人を例に持ってきたのでしょうが、そこから「何でキレるか分からない」でまとめるのが秀逸です。「変な人」でまとめるよりは田舎のヤバさが伝わりますし、「その人が特別変なんでしょ」という反論にも対処しています。

7.強引だが納得できる例えでまとめる

【参考動画 2分42秒辺り】
 だから全部逆なんですよ。うるさいし、暗いし、危ないし、変なやついるっていう。マジの田舎ってクラブと変わんないんですよ。
 「移住したいな、都会から田舎に」って思ってる人、これだけ言わしてください。「マジで都会にいて。クラブ行ったほうが早いから」。以上でございます。

 最終的なまとめです。

 ありがちな田舎のイメージを覆して本当の田舎を知らしめたところで、それを都会にある別のものに例えます。どこか納得できる要素を含みつつも強引に「クラブと一緒だ」と言い切り、都会で似た経験ができるんだからいいじゃん、でまとめてフィニッシュです。


 以上が芝さんの「2分59秒」です。本当の田舎で育ったからこそ実感を持って言えるエピソードを詰め込み、様々な技を駆使して説得力のある主張にまとめ上げています。何より面白い。よくできているとしか言いようがありません。

 今回はこんなところです。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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