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世界はガチであふれている

 専門家とかガチ勢とか、特定のジャンルに詳しい人を表す言葉はいろいろありますけれども、何がビックリってどこに行ってもその道の専門家やガチ勢がいるという点です。

 例えば、私はリアルタイムアタック(RTA)と呼ばれる、ゲームをいかに早くクリアするかを争う競技が好きで、いろいろ動画や配信を見てるんです。そこで驚いたのが聞いたことのないゲームでも参加者が何人もいる点であり、同じゲームでもルールの異なる競技が複数存在している点でございました。同じ徒競走でも様々な競技があるように、ゲームのRTAでも細分化されているんです。そして、各競技で各参加者が日々記録を狙っている。

 似たような驚きは別のところでも感じました。最近は24時間生配信しているチャンネルも随分と増えました。ひたすら大通りを映したり、ひたすら鳥の巣を映したりしている配信もあり、私もたまにぼんやりと眺めて楽しんでいます。

 猫を保護する施設の生配信もよく見ています。定点カメラで施設の猫をひたすら配信するというシンプルな内容ですが、猫の可愛さからか夜中でも30人くらいの人が見てるんです。それだけならまだしも、コメント欄を見ると猫の名前を完全に把握している方がメッセージを書き込んでいる。何なら、あの子は新しい飼い主に迎えられたとか、そういう情報を他の人と共有している。どこで知ったのかは知りませんが、ガチガチのガチ勢ということだけは分かります。

 国内某所の森を定点カメラでひたすら映す生配信も見ているんですけれども、こっちはこっちでガッチガチな方のコメントが確認できるんです。森ともなれば昼夜を問わず、時折動物が映るんですけれども、その動物がパッと映る時刻を書き込んでいる人がいるんです。「1時39分21秒に画面の右上でムササビが滑空」というコメントを見たら、その時間に合わせてアーカイブを確認すると確かに画面右上でムササビが一瞬見える。ありがたいのはありがたいんですけれども、こういう方はずっと画面に張り付いているんでしょうか。その気力はどこから湧き出ているのか。体力はどうやって維持しているのか。いくつもの謎が出てきてしまいます。

 現実世界でもそういう方を見ることがあります。例えば私、先日に某所のホテルに泊まったんですけれども、近くの水族館チケットもセットでついてくるというお得なプランだったんです。早速、私は水族館の開館時刻に合わせてホテルからチケットを受け取り、いざ水族館へ。到着してすぐに水族館で当日行われる全イベントの開催場所と時刻をチェックし、片っ端から見ていく計画を立てました。1日限りのエセ水族館ガチ勢がここに誕生したんです。

 たった1日だけのガチ勢だとしても、高みを目指したから見えてくるものがあるんです。先に気づいたのは私の連れでした。座席でイルカショーの開演を待っていると、連れが最前列に座る人を指さして言いました。「またあの人がいる」。「あの人」は明らかに女性で、ひとり静かに座っていました。

 連れが言うには、これまで我々が参加した全てのイベントにいたとのこと。しかも、どれも開始15分前から最前列を陣取っていると。

 以降、私もイベントごとに確認してみると、確かにあのアシカショーにもこのイルカショーにも、何ならちょっとしたフィーディングにさえその女性がいる。写真を撮ることはせず、ただ静かにイベントへ参加して楽しみ、それが終わればスッと去っていく。一挙手一投足に職人っぽさを感じさせる、まさにガチの姿でした。

 あの女性はきっと年間パスを持っていて、定期的に水族館へやってきてはその日のイベントをフルコンプしているに違いない。私たちの意見はそういう形で一致しました。

 いろんな場所にいろんなガチ勢がいる。世界は予想以上に混沌としています。

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