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仮病対策済み待合室

 あまり身体の強い子供ではなかったんです。だから、幼少期はちょこちょこ熱を出して休んでいました。月に一度は休んでいたので、結構な弱さです。3日連続で休んだこともある。逆によく今まで無事に生きてこれたものです。

 体調不良で休むので、当然ながら両親に病院へ連れていかれます。毎月のように行くので、医者が診察で何をするのか分かるようになってしまいました。目を見て、喉を見て、お腹の辺りを触診して、などなど、医者のローテーションを記憶するまでになった。処方される薬は大体同じものだったので、同じような症状で体調を崩していたのでしょう。

 成長するにしたがって熱を出す頻度は下がってきまして、それは大変ありがたいことではあるのですが、代わりに小癪なことをするようになってきました。仮病です。学校に行きたくないからと、自分の病弱さを活用する。「こいつ心も弱いのか」とのツッコミも覚悟で両親に仕掛けるんですが、そこに立ちふさがるのが体温計です。

 体温計は手加減をしてくれませんから、その時の体温をちゃんと出すんです。だるい気がしても、熱を測れば綺麗に平熱判定する。コタツの中で測ったり、脇に力を入れてみたりといろいろ頑張ったんですが、まあ体温は簡単に上がらない。一回、石油ヒーターの排気口にコッソリ体温計を突っ込んだら47℃とかものすごい温度を叩き出してしまい、「まずい、これは救急車を呼ばれる」と焦って仮病を諦めたこともあります。

 私が病気を理由に学校を休もうとしていることくらい両親にバレてますから、結局、仮病がうまくいったことなんて100回に1回くらい、あとは微熱で勘弁してもらって休んだのが10回に1回くらいでしょうか。自分は嘘が下手なのだと痛感した次第です。

 さて、無事に病院行きを勝ち取った私が悠々と座るのが、病院内にある待合室の椅子でございます。待合室はその性質上、暇つぶしになるようなものを置いてある場合がございます。テレビで情報番組を垂れ流しているところもあれば、雑誌が充実しているところもある。子供が来るのを見越してか、絵本や漫画を置いてあるところもございました。

 病気で調子が悪いとは言え、みんなが学校で勉強している間に堂々と漫画が読めるのはある種の天国です。何しろ病気ですから、親も大目に見てくれる。

 早速、待ち時間に漫画を読むわけなんですが、ジャンルによっては危険なんです。その危険なジャンルとはギャグ漫画です。万が一でも、笑いのツボに入ってしまうと大変なんです。公共の場でひとり爆笑するのはただでさえ恥ずかしいのに、こっちは患者として病院にやってきてるんです。しかも、ちょこちょこ仮病を試みる小癪な子供でございますから、漫画を読んで爆笑なんてしたら親から「お前、また仮病使ってるだろ」と言われ、そのまま学校に連れていかれかねない。必死で耐えるんですが、口角は上がるし肩は震える。読むのをやめればいいのに、漫画は面白いからその選択肢が浮かばない。

 いま考えたら、待合室のギャグ漫画は仮病の子供をいぶりだすために置いていたのかもしれません。

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