新しい拷問

　寒くなると眠くなるんです。何か雪山で遭難した人の最期みたいな書き出しですけど、やっぱり夏より眠くなる時が多い。共感いただける方もいらっしゃるかと存じます。

　体が欲してるんだから無理せず寝ればいいという考えもあるとは思うんですが、困る時もあるんです。油断すると生活サイクルがあっという間におかしくなるんです。

　例えば、寒い日に仕事から帰ってくると、いつも通りお風呂に入ってご飯を食べるんです。家に帰った安堵に加えて、お風呂で体がホカホカに暖まり、しかもお腹いっぱい。横になれば即寝られる条件が揃っているんです。ええ、寝ます。寝るんです。

　ウトウトしだすのが夜10時くらいだったとすると、なんか寒いなと思って目覚めるのが朝4時とかになるんです。先日もそうでした。次の日も仕事ならばそのまま布団から起き上がらずに二度寝を開始するところなんですが、歯を磨いてないのを思い出しまして、仕方なく洗面所に向かいました。歯を磨いていると往々にして目が覚めてしまい、二度寝が難しくなるんですけど仕方がありません。

　二度寝のことを考えて、なるべく頭を覚醒させないように暗いところで歯磨きを済ませまして、ここまでやったのだからとマウスウォッシュもやりました。殺菌作用のあるスース―する液体を口でクチュクチュしてペッとやるあれですね。もう朝はスッカリ寒くなりましたし、何なら鼻づまりになってるくらいなので、とっとと布団の中に逃げ込みたいところですけど、まあ我慢してやったんです。

　お口をクチュクチュしている時に思い出したんです。尿意がヤバいと。どうせトイレはすぐそこです。口内を綺麗にするにはそこそこの時間、マウスウォッシュをクチュクチュしなければなりません。その時間を利用しておしっこをしてしまおうと思ったんです。まあ、いつもよりクチュクチュする時間は長くなりますけれども、その分、口内が清潔に保てるわけですからいいかなと。

　男性の方はお分かりの通り、寝起きで立ってすると尿をあらぬ方向に吹っ飛ばして掃除が大変になるので、座ってやることにしました。お口はクチュクチュさせながら、下ではチョロチョロやっている。まるでなぞなぞみたいな状況だな、と寝ぼけた頭で考えていたんですが、やがて自分の置かれた状況を理解していくんです。

　息ができない。

　まず寒さで鼻がつまっています。そして、口の中にはスース―する液体がつまっています。どっちも塞がれているんです。さっさと口の中のスース―液をペッと吐いてしまえばいいんですが、下は絶賛放尿中で身動きが取れないんです。しかも、こういう時に限って放尿がなかなか終わらない。つまった鼻で無理やり呼吸を試みますが、苦しさが全く解消されません。かと言って、トイレでスース―する液体をペッとしてしまうのはどうなのかと。

　呼吸困難に陥るちょっと手前でどうにか放尿を終えてトイレの水を流しますと、パンツをはきながら洗面所に突撃し、どうにかペッとした次第です。朝の4時から新しい拷問みたいなことをした秋の日の話でした。いや、もう冬か。