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本当にある不思議な「著作権法」事件名③ 長文編

 何の気なしに著作権法の本を読んで知ったのですが、どうも法律の世界では過去の裁判を「〇〇事件」みたいな名前で呼ぶ場合があるようです。いろんな法律の本を流し読みした印象だと、法律によって判決に名前をつける・つけないの差があり、著作権法は非常によくつける文化圏のようです。

 何しろ裁判の結果ですから、多くは普通の事件名なのですが、調べてみると変わった事件名もチラホラありまして、思わず集めてしまいました。そして、せっかく集めたので、こうやって載せてみた次第です。

 事件名は次の書籍に載っているものから選びました。事件の内容についても多くはこちらを参考にしています。旧版も混ざっていますが、ご容赦ください。

著作権判例百選 第5版、有斐閣、2016
著作権法詳説 第10版、勁草書房、2016
著作権法入門 第2版、有斐閣、2016
著作権法 第2版、有斐閣、2016
著作権法 第4版、民事法研究会、2019

 また、上記書籍以外にも、各事件を説明する上で参考にしたサイトは事件ごとに記してあります。

 ちなみに、私は法律の素人ですので、説明の正確性については保証できません。ここでは主に事件名を楽しんでいただき、法律の知識が必要の際は専門家や専門書をご活用くださればと存じます。

 集めた事件名がそれなりの数になったので、ジャンルごとに分けてみました。今回はとにかく長い事件名を選びました。

 それでは参ります。

エルミア・ド・ホーリィ積み戻し命令事件(大阪高裁 平成9年5月28日)

 エルミア・ド・ホーリィは人の名前であり、贋作を専門に作っている「贋作作家」として知られています。「エルミア・デ・ホーリィ」「エルミア・デ・ホーリー」という表記になっている資料もありました。「積み戻し」は輸入された外国貨物が通関や検疫で許可されないなどの理由により、貨物を積んだ地に戻すことを指します。
 この事件は、ホーリィの贋作を日本に輸入しようとしたところ、関税は著作権侵害を理由に輸入を拒否して積み戻しを命じたため、輸入を試みた側は「著作権侵害はしていない」として裁判を起こしました。
 裁判では贋作の著作権侵害を認定し、積み戻し命令が支持されました。ただし、ホーリィの作品は本件以前に、日本国内で本物として高額で購入されてしまった事件が起きており、だからこんな措置になってしまったんじゃないか、という風に専門家の間では見ているようです。ひと騒ぎ起こして目をつけられていたということでしょう。通常、パロディ作品や著作権侵害の疑いがある美術品がそれを理由に輸入禁止となることは非常に低いと考えられています。

参考サイト
芸術判例集 美術表現に関わる国内裁判例25戦
http://haps-kyoto.com/haps-press/geijyutuhanreisyu/25sen/7/
らくらく貿易
https://www.rakuraku-boeki.jp/word/s012-2
みんなの仕事Lab-ジゴ・ラボ
https://lab.pasona.co.jp/trade/word/138/
ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BC


カラオケ歌唱室ミスターマイクマン事件(大阪高裁 平成12年12月22日)

 「カラオケ歌唱室」という聞き馴染みのない言葉は、いわゆる「カラオケボックス」を始めとする、室内にカラオケ機器があり、客がそれを使って歌うことで料金を支払う場所を指しています。そして、「ミスターマイクマン」はそのカラオケ歌唱室の名前であり、資料に「〇〇店」という表記があったことからもチェーン店だったと推測されます。
 被告は音楽使用料を払わずにカラオケ歌唱室を運営していたため、音楽著作権管理団体から著作権侵害を理由に何度も注意をされていたのですが、ガン無視していたようです。当然の結果として裁判に至りました。
 裁判では原告である音楽著作権管理団体の主張が概ね認められ、音楽使用料の支払いを命じられました。更には被告企業の取締役による任務懈怠責任、つまりやるべき仕事をきちんとやらなかったという点も認定されました。

参考サイト
上野達弘先生のサイト
http://www.f.waseda.jp/uenot/hanrei/txt/h120418a.txt
裁判所
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/246/013246_hanrei.pdf
カラオケの窓口
https://dam-karaoke.com/jasrac


ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(最高裁 第一小法廷 昭和53年9月7日)

 「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」は日本のハワイアン歌手である日野てる子さんが1965年に発表したシングル盤レコードです。作詞・作曲は鈴木道明さん。本件では被告側の楽曲となっています。
 要するに「うちの曲とすげえ似てるけどどういうことだ」という裁判です。原告はアメリカの版権管理会社で、1934年の映画、映画「ムーラン・ルージュ」の主題歌「夢破れし並木道」(作曲はハリー・ウォーレンさん)が「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」に似ているのは著作権侵害だとして訴えました。
 「偶然かぶっちゃった場合は著作権侵害にはならない」という判断がされた有名な判決です。通常、著作権法では著作者に無断で作品を模倣することを禁止しておりますが、たまたま同じようなものが作られた場合は、どちらも作品も例外的にそれぞれ著作権が保護されると結論づけられました。もちろん、そうなるためには被告側が本当に原告側の作品と接していないか、本当にたまたまかぶっただけなのかをキッチリ調べる必要があります。

参考サイト
ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%A7%E3%83%BC%E4%BA%8B%E4%BB%B6
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E9%87%8E%E3%81%A6%E3%82%8B%E5%AD%90
https://en.wikipedia.org/wiki/Moulin_Rouge_(1934_film)


会津若松ウィンドファーム環境影響評価書事件(東京地裁 平成25年8月30日)

 著作権法の事件でも屈指の長さを誇る名前です。「会津若松ウィンドファーム」は風力発電所の名前です。「環境影響評価書」は風力発電所が環境に与える影響に対する周辺住民などの意見を記した書類であり、風力発電所の事業者は条例によって必ず作らなければならないと定められています。
 環境影響評価書に自分たちの意見が勝手に載せられているのは著作権的にどうなんだ、ということでNPO法人が風力発電所の事業者を訴えて裁判になりました。
 環境影響評価書は条例で義務付けられているものであり、またいろんな人へ大量に配るようなものではありません。また、周辺住民などの意見をそのまま載せたわけではない点も考慮され、著作権的には問題ないと判断されました。

参考サイト
裁判所
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/599/083599_hanrei.pdf


終わりに

 いかがでしたでしょうか。いろんな名前があったことと思います。著作権関連の事件名は、事件のもとになった作品などがそのまま使われやすいため、不思議な事件名がたくさん登場していると推測できます。

 なお、当然ですがそれぞれの事件は原告・被告及び裁判所の方々によって真剣に行われたものです。そのギャップもあってか、不思議な事件名はより一層、目を引く名前となり、また魅力のあるものとなっています。

 長々と紹介して参りましたが、皆様がお楽しみいただけたのならば幸いです。次回はちょっと特殊な表記が気になる事件名をご紹介いたします。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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