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靴下神経衰弱

 好みは皆さんありますよね。私もあります。見たところ、ヒト以外の生き物にも余裕であるようです。前にも書きましたけど上野のパンダは笹よりも先にリンゴを拾って食ってましたし、牛は牧草よりペレットを優先して食ってましたし、カメはペレットより豚肉のほうが食いつきがよかったです。

 別に食べ物に限った話ではありません。生きているといろんなところで好き嫌いが発生します。どうしてなんでしょうかね。好みはいろんな生き物に存在していることから考えるに、好き嫌いあったほうが生きる上で有利に働いたから、みんな今日も今日とて「あれが好き」だの「これが嫌い」だの判断しているんだと思います。

 とは言え、どんな物事もうまくいく時といかない時があります。好き嫌いだって同様です。嫌いな人だからと言って酷い対応ばかりしてはトラブルの元ですし、好きなものばかり食べていると栄養バランスが崩れかねません。うまく付き合っていったほうがいいのは、好みもまた同様なんでしょう。

 服装は人の好みがよく出る分野でしょう。どうしても着なければいけない時を別とすれば、人は着たい服を着て、着たくない服は着ないはずです。そうなると、必然的に似たような服が手元に集まってきます。もちろん、意識していろんな服を集めている人もいらっしゃるでしょうけれども、やっぱり何らかの傾向は薄っすら出てくるに違いありません。男性はなかなかクローゼットに自分のドレスをしまいはしませんし、女性はなかなかふんどしをタンスに保管していまいでしょう。まあ、ふんどしは大体の人にとって「好き」から大きく外れたものでしょうが。

 私も洗濯をするたびに思うんです。似たような服が多いなと。新しいファッションに挑戦をしたほうがいいなと思いつつ、同じような服を買ってしまう。そして、好きな服は長期間にわたって着たいですから、大切に使います。もちろん、長持ちする。結果的になかなか服が入れ替わらず、新ファッションに挑戦する機会は滅多に訪れなくなる。悪循環と言っていいのかは分かりませんが、閉鎖的な循環である点は間違いない。

 そんなある日のことです。雨が続いたこともあり洗濯物を随分と溜め込んでいました。仕方がないので、1回目は靴下と下着のみ、2回目はタオルとシャツのみ、みたいな感じで、複数回にわたって洗濯機を稼働させました。

 靴下・下着パートの洗濯が終わりまして、早速、干そうと思ったんです。そこでようやく、洗濯槽の中で何が起きたのか悟りました。靴下の見分けがつかないんです。どこからどう見ても同じ靴下が何本も絡まっている。

 私、長きにわたって同じくらいの丈の、似たような色の靴下ばかり買っていたんです。それでも、今までは2足か3足くらいしか一緒に洗わなかったので、特に気にならなかったんです。それが一度に6足も洗っちゃったので難易度が爆上がりしてしまったわけです。

 しかも、その靴下が例外なく黒メインなんです。ちょっとした模様の違いから判断するしかない。しかし、ご存じの通り、洗濯槽の中は若干暗くなりますから、「ああ、これとこれね」と同じ靴下をすんなり取り出せない。

 結局、濡れた靴下を床に並べて5分くらい考え込んでいました。もうちょっと新しいファッションに挑戦しようと思ったわけですが、こんなきっかけでチャレンジに目覚める人間は世間にどれだけいるのか。いや、もう考えないようにします。

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