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「日本一の下足番」の先にあるもの

 「場合による」って便利なのでつい使ってしまいますけど、考えたら当たり前の話なんですよね。場合によらないものを探すのが難しいくらいです。だから、「場合による」と言うと、なんか答えに窮した時の逃げの一手みたいな感じにとらえられることもたまにあります。でも、本当に「場合による」としか言いようのない時もあるわけです。

 例えば、小林一三の名言です。小林一三は阪急東宝グループの創業者として知られる実業家であり、大臣の経験もございます。彼の名言にこんなものがございます。

下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。

 「ちょっとした仕事でも抜きん出た働きを見せれば、そのうちもっと大きな仕事のオファーが来るぞ」みたいな意味合いでしょうか。「だから、ちょっとした仕事を任されても一生懸命やりなさい」といった教訓めいたものを感じ取る方もいるでしょう。

 「日本一の下足番になれ」とのメッセージは簡単に理解できます。しかし、「日本一の下足番」とはどんな下足番か。名言では何も語られていません。「日本一の下足番」とはあくまで例えであり、具体的な何かを示すものではないからでしょう。だから、「日本一の下足番」のイメージはきっと人によって異なるはずです。いつ、どこで、誰の下足番をしているかによっても違うでしょう。これらを一言でまとめようとすると「場合による」みたいな便利な言葉に頼らざるをえなくなります。

 我々は日本一の下足番になる方法が知りたいんです。でも、そう嘆いたところで「そこは自分で考えてくれよ」という小林一三のぼやきがどこからか聞こえてくるかのようです。やっぱり、そういうのは自分で探すしかないんでしょう。幸い、ヒントはそこらじゅうにございます。

 例えば、昨今では都市部でトラック広告をよく見かけるようになりました。特に見かけるのは高収入だの高収入だの歌ってるやつですね。何の広告なのかちゃんとは理解していませんけど、ちょこちょこ見かける広告です。個人的には、もう最近では見慣れてしまったせいか広告という認識もしなくなり、曲を流している派手なトラックとして扱っています。

 そんなある日のことです。何の気なしにテレビでNHKを見ていると、気象情報が始まりました。背景として映っていたのはNHKのある渋谷の景色です。番組は生放送でしたから、いわゆる「現在の渋谷」というやつです。ビル群の足元を縫うように道路が通っていて、そこを絶え間なく自動車が走っておりました。すると、渋谷の現在の景色に例の曲を流している派手なトラックが画面外からヌッと現れ、例の高収入広告をバッチリ見せながら走り、再び画面端に消えてゆきました。

 NHKと言えばご存じの通り、公共放送という理由から番組の合間にCMを出さない方針をずっと守っています。そんなNHKの画面に間接的とは言え、高収入広告を登場させたんです。

 トラック広告の運転手が意図的にやったのかどうかは分かりません。ただ、仮に意図してやった場合、それがいいことかどうかは別として、ドライバーのアイデアによって、ただ何となく街中を走らせているよりも多くの人にトラックの広告が見られたわけです。

 日本一の下足番を目指すとはこういうことなんじゃないかと思ったんです。自分なりにアイデアを考え、実践する。NHKでトラック広告を見かけたのはだいぶ前ですが、当時ドライバーをされていた方が今はどんな仕事しているのか、ちょっとだけ気になっています。

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