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科学で忘れ物を誤魔化す

 知識は道具みたいなものです。うまいこと活かすためには場面にあったものが必要ですし、逆にたくさん集めて棚に並べて楽しむ使い方もある。いずれにしろ、使う側のアイデア次第でどんどん可能性が広がるものである点は間違いないようです。

 私は昔から科学的なことが好きでして、お陰で理科の成績はそれなりだったんですが、忘れ物の多さが悩みの種でした。特に小さい頃は先生に申告して怒られるか、申告せずに怒られるかのどちらかが多く、何度も嫌な目に遭ってまいりました。忘れ物をゼロにするのがもちろん急務なんですが、もし忘れた場合にも何か対処できればと思っておりました。

 ある日、私は消しゴムを忘れました。教科書を忘れるのに比べたら傷は遥かに浅いですが、私は一日中、書いた文字を消せない人間になってしまいました。こういう時のために予備の消しゴムを自分の机に忍ばせておけばいいのですが、わざわざ余分に買った消しゴムを失くしでもすると私の性格上、間違いなく激ヘコみするので、できればしたくありませんでした。かといって、誰かに借りる勇気もなければ、上から鉛筆で文字を消して済ませるという発想もなかった私には、何か別の誤魔化し方を思いつく必要がありました。

 悩んだ挙句、私は雑学の本を思い出しました。消しゴムはなぜ鉛筆で書いたものが消せるのか。結論はこうでした。鉛筆で書かれた線は芯が細かな黒い粒になって紙に付着していると。そして、消しゴムがその付着した粒を取るから線が消えるのだと。

 なるほど、ゴムは確かに粉をくっつけそうだ。じゃあ、代わりのゴムなら何とかなるんじゃないか。私はポケットに入っていた輪ゴムに全てを託しました。恐る恐る間違えた文字をこすってみると、なるほど、本家である消しゴムほどじゃないまでも、輪ゴムだってそこそこ文字が消えるじゃありませんか。輪ゴムがすぐに汚れる点さえ気にしなければ、充分に消しゴムの代わりとなり得ます。

 というわけで私、拾った輪ゴムを学校の机に忍ばせて置き、いざという時に使うという癖がつきました。予備の消しゴムと違い、拾った輪ゴムだったら失くしても大したダメージは負いません。何しろ、元手はタダです。しかも、なぜか私、輪ゴムを拾う能力に長けていまして、輪ゴムに困ったことがありません。お陰で輪ゴムには結構、急場をしのがせていただきました。

 科学的な知識を己の忘れ物を誤魔化すために使う。何だか、科学的な何かを使って詐欺を繰り返す人間の幼少期みたいなエピソードですが、今のところ、前科なしでやらせていただいております。残りの人生もこのままいきたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

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