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M-1グランプリ予選で軽く死にかけた話

 きっかけは思い付きです。M-1グランプリに参加する芸人を片っ端から見てみたい。

 しかし、予選1回戦は準々決勝常連のガチ勢からノリで参加したフレッシュ勢までバラエティに富みまくっています。中にはそもそも人前でネタをやり切れるかどうかすら微妙な組だっている。アマチュアも参加可能な大会なんですから当たり前です。ただ、見る側としてはなかなかにしんどい。震える手でしっかりすべられたり、目を泳がせてハッキリとネタを飛ばされたりすると、他人事なのにこっちも緊張してしまいます。心の中で「がんばれ」と応援に力が入るも、多くの演者はどうにもできずに退場する。観客は時に無力です。

 安定感があって面白い面々を見まくりたいなら、もっと上の予選を見るしかない。ですが、準決勝ともなりますとチケットが一瞬で売り切れます。いろいろ考えた結果、予選2回戦が一番いいとの結論に達しました。

 そうと決まれば有休を大量投入し、2回戦へ挑みました。もちろん、当日は最初から最後まで全組のネタを見ます。朝起きて、会場のある浅草へ行き、軽めに食事をしてから入場します。開始は12時か13時、終了は19時から20時くらいが多かったと記憶しています。全てのネタをメモしますし、帰宅したら2回戦を通過した全組と落ちたけど気になった組の感想をまとめてブログにアップしていました。その年の東京予選2回戦は6日間あり、私はそのうち5日に参加しました。つまり、上記の行為を5セットするわけです。朝起きてから夜寝るまでM-1漬けの日々です。

 異変は3日目に起きました。帰り道の景色がぼやけるんです。頭もフラフラする。原因はひとつしか思いつきませんでした。M-1です。朝起きれば準備をして出かける、夜に帰宅しても感想をまとめる。心身の休まる暇がありません。ひたすら続く緊張状態が身体に異常をきたしたのでしょう。

 唯一の気晴らしは面白いネタです。笑っていると疲れもつらさもどこかへ行ってしまう。逆を言うと、すべられると演者もつらいが私もつらい。自分で勝手に課した任務とは言え、過密スケジュールにヒーヒー言っている状態ですべられると普段の十倍はダメージが入る。当時はマジで命にかかわると思い、天に祈る気持ちで面白い芸人の登場を待ち望んでいました。最終日の帰り道はフラフラすぎて、帰路にあったあらゆる手すりに捕まって帰った記憶があります。

 大会の審査員はしばしば批判にさらされて大変だとは思っていましたが、予選の審査員ともなると精神力に加えて体力も必要なのだと思い知らされました。

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