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サブタイトルの混沌と秩序

 以前、ここで「超人バロム・1」という作品のサブタイトルがおかしいのに誰もいじってなかったため、僭越ながらいじらせていただきました。

 そしたら、昔のアニメや特撮に詳しい友人から「こんなのもあるよ」と2つの作品を教えてくれました。ひとつ目は「緊急指令10-4・10-10」です。1972年に放送された作品です。

 「10-4・10-10」は「テンフォー・テンテン」と読みまして、無線で使う用語となっています。「10-4」は「了解」、「10-10」は「通信終わり、受信態勢に入る」を意味しています。無線を通じて知り合った人たちがチームを組んで事件を解決するというストーリーのため、このようなタイトルになったと推測されます。

 制作にかかわっているのは特撮で有名な円谷プロダクションです。しかし、ウィキペディアの「緊急指令10-4・10-10」に不可思議な文章が書かれていました。

毛利チームの活動は(中略)幅広く、内容の自由度の高さは円谷プロ作品の中でも群を抜いている。

 毛利チームとは主人公のチーム名なんですが、とにかく自由度が高いそうなんです。実際に全26話のサブタイトルを確認すると、確かに多彩なんです。

 例えば、円谷プロの伝家の宝刀とも言える怪獣ものを髣髴とさせるタイトル群があります。「狂った植物怪獣」「地底怪獣アルフォン」「怪鳥ラゴンの襲撃!」など、ウルトラマンシリーズにコッソリ忍ばせても違和感のないサブタイトルです。しかし、そこに留まらないのが自由度の高さを物語っています。

 まず怪奇ものを彷彿とさせるタイトル群があります。「謎の火炎怪人」「海獣半魚人の反逆」「闇に動くミイラ」などが該当します。当時の少年を恐怖させるに充分なサブタイトルたちです。

 未来の香り漂うSFチックなタイトル群もあります。「青いインベーダー」「宇宙から来た暗殺者」、「大空を飛ぶ少年」なんかもSFのタイトルっぽいですね。子供をハラハラさせると同時に夢を与えるようなサブタイトルです。

 ヒッチコックの映画「鳥」の影響で流行した動物パニックものっぽいタイトル群もあります。「人喰いカビ」「人喰いナメクジ発生!!」「死を運ぶ鳩」などがそれにあたります。とりあえず、人を喰うか死を運べばいいんだろ感が出てますけれども、これが当時の流行だったのでしょう。

 もちろん、なんだそりゃと首をかしげたくなるタイトル群もありました。「死を運ぶ鳩」だって、いくら死を運んだとしても鳩で恐怖感がだいぶ削がれる気がするんですが、何しろ自由度の高い作品です。他にもまだあります。

 例えば、「カブト虫殺人事件」なんて聞いただけじゃ意味が分かりません。カブトムシでどうやって殺人をかますのか興味が出てきます。もしくは、カブトムシを巡って殺人事件が起きるのか。どちらにしろ、並大抵のミステリー作家では思いつかない境地に辿り着いた画期的な作品であることが想像されます。「死を呼ぶバイオリン」も同じタイプですね。何か変な感じがしてどうもタイトルに恐怖が足りないんです。「死体を呼ぶ白骨」。白骨もまた死体である点が無視されてる気がして、どうも腑に落ちません。

 「妖怪ねずみ地獄」は「妖怪ねずみ」がいる地獄なのか、「ねずみ地獄」という名の妖怪が出てくるのか、それとも妖怪とねずみと地獄がバラ売りされているのかが分からなくなってしまっています。こういう文章は私もよく書いてしまうので気持ちはよく分かります。

 「天才ゴリラの初恋」に至ってはどういうストーリーなのかも想像がつきづらいですし、事件を思わせるサブタイトルの中にあってかなりの異質さを誇っています。同じ異質さという点では「緊急指令10-4・10-10」の最終話です。大体この手のドラマだと最後にはボスとの決戦が待っているものなんですが、最終話のサブタイトルは「非行少女カオリ」と、いきなりハートフルドラマっぽくなってしまいました。どんな最終話なのか、これまた本当に想像がつきません。

 「自由度が高い」ということは時に「混沌」と同値なんだということを思い知らされました。

 もうひとつ教えてもらったのは「アパッチ野球軍」です。こちらの作品はかねてから「コンプラきつめの現在ではとてもじゃないが放送不可能」で名高い作品として知られ、軽く検索をかければ放送コードをいとも簡単に打ち破る作風をいじったサイトがいくつも出てきます。やれ放送禁止用語にあふれてるだの、やれ登場人物の名前が酷いだの、やれ高校生なのに飲酒喫煙しまくってるだの、もう魅力しかないのがよく分かります。

 舞台は愛媛県にある過疎の村「猪猿村(いのさるむら)」でして、そこで主人公が子供に野球を教えるというストーリーなんです。でも、ウィキペディアの「アパッチ野球軍」の項目にはこんなことが書いてありました。

猪猿村は単なる「田舎」というよりは、文明以前の原始人が弱肉強食の掟によって暮らす「無法地帯」のような場所であり、近隣の住民からは「アパッチ村」と呼ばれて恐れられていた。

 ウィキペディアの筆者としては冷静かつ客観的に書こうと心掛けたんでしょうが、いじりたい気持ちが全く抑えられていません。誰もがいじらずにはいられない。アンタッチャブルな作風とは裏腹に、アンタッチャブルとは真逆の位置に存在する作品、それが「アパッチ野球軍」のようです。

 「アパッチ野球軍」もまた全26話なんですが、意外なことに混沌まみれの「緊急指令10-4・10-10」とは異なり、各話のサブタイトルにまあまあ法則性が見られるんです。それは当然のことで、「野球」というテーマが1本ビシッとあるために、「野球」を中心として秩序が保たれているんです。

 ただ、序盤はなかなかの混沌です。第1話こそ「傷だらけのエース」と野球らしさを出しているんですが、問題は2話から7話です。「他国者(よそもの)は刺せ!」「犯人(ほし)を探せ」「白昼のダイナマイト」「天狗岩の死闘」「走れ!ボロ馬車」「誘惑の町」。「野球するんじゃないのかよ」というツッコミすら野暮に聞こえる荒くれ者ばかりです。第8話になるとようやく野球を思い出すんですが、サブタイトルは「黒い霧と白い球」と荒々しさが全く抜けていません。

 それでも、以降は努力と根性が幅を利かせる当時の世相を反映させたような野球っぽいサブタイトルが続き、エンディングまで駆け抜けます。「アパッチ野球軍」のような無茶苦茶な設定でもストーリーの芯となるようなテーマが1本ビシッと通っていれば、サブタイトルにはある程度の秩序が生まれる。アパッチ野球軍からそんなことを学ぶとは思いませんでした。

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