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桁違いの尿意

 ハプニングは時と場所を選びません。よりによって一番大切な瞬間にだって平気でやってくる。

 例えば、大学入試センター試験、今でいう共通テストを受けた時の話です。万一のことがあってはいけませんから、自分なりに注意深くやっていました。試験会場までの道のりは前日に歩いてチェックしましたし、当日は忘れ物がないか何度も確認しました。会場では、試験の合間の休憩時間に毎回必ずトイレへ行っていました。

 試験も最後の科目になった時です。これが終わればとりあえず一息つける。私は気合を入れ直して挑みました。マークシート方式だったこともあり、問題自体はそこそこ順調に解いていました。分からなくてもとにかく埋めて、ラッキー得点を狙うことも忘れません。あとはなるべく悔いを残さぬよう頑張るだけです。

 しかし、残り20分くらいになったところで、私は下腹部に違和感を覚えました。最初はまさかと思っていましたが、数分経って確信しました。尿意です。尿意が襲いかかってきたんです。

 休み時間に膀胱から限界まで絞り出したと思っていたのに、この試験中におしっこが急速にチャージされていくんです。絶対にありえないと思っていた場面に出くわすと、パニックも5倍増しです。こんな時にどうしてやる気を出すんだと己の腎臓を呪いながら問題を解き続けます。尿意が増すにつれて、当然ながら注意は目の前の問題より膀胱に向けられていきます。

 試験官に言ってトイレへ行かせてもらう選択肢も考えはしました。ですが、こういう時に限って、全ての問題が解けるかギリギリの状態だったんです。試験に落ちるのは嫌だけど、試験中に漏らすのも嫌だ。結果として、尿意に耐えながら問題を解くという、茨の道を進むしかありませんでした。ラストのほうは、もう「いかに漏らさないか」にばかり集中していました。

 試験は無事に終わりまして、何はともあれ速攻でトイレへ。スッキリしたのは良かったんですが、ラスト20分、集中して問題を解けなかったのが悔やまれます。肩を落として家に帰った私、翌日の自己採点タイムまで己の腎臓を恨み続けていました。できることならドロップキックでもかましてやりたいと思っていたんです。

 さて、翌日の自己採点タイムです。膀胱の乱がどれだけの減点に繋がったのか。私の最大の興味はそこに尽きます。

 死刑判決を聞くような気分で、例の膀胱ゾーンの採点をしたんです。正答率が高くて、間違いかと思いました。でも、何度確認しても、普段通りの状態で解いたところよりも正解をバシバシ出している。なんで腎臓を恨みまくってしまったんだと、いたく反省した次第です。

 だからと言って、おしっこを我慢しながら試験を受けるのがベストとは思いません。ただ、あまり良くない状況でも普段よりいい結果を出すのはそこまで珍しい現象ではないようで、現在に至るまで私はそこそこ遭遇しています。

 ハプニングが起きてもいい結果が出ることもある。それを初めて体感として学んだのが、試験中の尿意でございました。

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