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大学お笑いライブで精神が鍛えられたようです

 きっかけは知人からの電話でした。

「従妹が大学院を受けるんだけど、本人もその両親も説明会に行けなくてさ、代わりに出ることになったんだ。だから、一緒に来てくれない?」

 奇妙な誘いもあったもんです。「だから」という接続詞も意味が分からない。

「事情は分かったけど、なんで俺?」
「知ってる理系が他にいないんだ」

 理系と言われれば確かにそうですが、別に大学院を受けたこともありませんし、聞けば彼の従妹は私と専門が全然違う。

「理系くらい探せばいくらでもいるよ」
「いや、意外といないんだって。頼む、絶対ネタになるから」

 知人は普段からネタになりそうな話を教えてもらってる手前、どう言えば私が飛びつくか熟知しています。もちろん二つ返事でオーケーしました。縁もゆかりもない大学の正門で知人と待ち合わせ、中に入りました。

 当然ですが、参加者は大学院を目指す学生とその保護者ばかり。友人はともかく、私は外見も実年齢も、保護者にしては若すぎますし、学生にしては老けすぎている。明らかに浮いた存在であり、控え目に言って軽い不審者です。数年前の私でしたら、ビビり倒して本当に不審者認定されていたでしょうが、説明会の私は堂々としていました。そのせいか、大学職員から何も言われず、説明会は難なく終了しました。なぜそこまで成長したのか、私には心当たりがありました。

 以前、私は某大学の文化祭へ行く機会があり、そこでお笑いサークルがネタをするというので客として行ってみました。最初は正直言ってなめていたのですが、皆さん思っていたよりもちゃんとしており、普通にお笑いとして楽しめました。その時に誘ったのもまた同じ知人です。彼は言いました。「普段も月一でライブしてるらしいよ」。

 今はこのご時世ですのでやっていないようですが、当時は大学の講義室を借りて夕方にライブを開催していました。「ネタになるから」と例の誘い文句で簡単に呼び出された私、知人と共に縁もゆかりもない某大学内の会議室に向かいました。

 そこで私は思い知りました。文化祭の時は学外からたくさんの客が来ていて、明らかに大学生でない人がむしろ多かった。今回は違います。普通の平日であり、学内にいる人の大半は大学生と大学院生、あとは教職員などがちょろちょろいるくらいです。その中を無関係の大人が突き進み、建物に入り、講義室へ向かう。私は変質者になった気分でした。学生に変な目で見られはしないか、警備員に連れていかれはしないかと気が気ではありません。ライブは学生が主催、客も当然ながら大半が学生です。たまに教職員らしい人が紛れていますが、激レアなことに変わりはありません。会場で私は「自分は教職員……自分は教職員……」と意味の分からない自己暗示で精神を保ちながら、ライブを楽しんだ記憶があります。無事にライブを見終え、大学を出てホッとする私に知人はこう言いました。「また見に行こう」。何で懲りないんだこの人は、と思ったものです。結局、それから何回も行ったどころか、別の大学のライブにも行きましたし、大学対抗のお笑いライブも見ています。何ならひとりで見に行ったこともあります。

 外部の大人が大学生に混じって2時間も3時間もお笑いライブを見てきたんです。面の皮だって厚くなります。ましてや、大学院説明会なんて平然と出れるってもんです。

 これからもマジの変質者にならない程度に面の皮が厚くなってくれればいいと思います。

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